劇場公開日 2020年10月9日

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「世の中の残酷な望み」望み 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世の中の残酷な望み

2020年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 堤幸彦監督はリアリティのある演技を引き出すことに長けている。昨年1月の「十二人の死にたい子どもたち」では、自分たちが世界の中心にいないことをよく分かっている子どもたちが自分たちの状況を冷静に分析しているのが窺えるシーンを映していた。実際の子どもたちが純粋でも無邪気でもないという現実をストレートに表現したことに好感が持てた。
 本作品では突然発生した予期せぬ事態に最初は戸惑い、そして徐々に慣れてくる家族を描く。家族それぞれに違う受け止め方をしているし、容赦ないムラ社会の理不尽なバッシングに対する反応も家族それぞれで異なっている。家族といっても必ずしも一枚岩でないのだ。その上家族それぞれに自分が何を望んでいるのか、本人たちにもはっきりしないところがある。
 役者陣はほぼ好演だったと思う。特に堤真一はいつもの飄々とした演技を封印して、日本中に蔓延するムラ社会の不条理と静かに対峙する父親を熱演した。清原果耶は公開中の「宇宙でいちばんあかるい屋根」に引き続き中学生役で、状況をうまく乗り切る世渡り上手な女の子が、自分では乗り切れなくなった状況に陥ったときにどうなるのか、よく考えた演技をしたと思う。石田ゆり子は不細工に見えるほどの暗い表情が上手かった。息子を自分よりもずっと信じてくれている女の子たちを前に気持ちが崩れていく。加藤雅也の刑事も秀逸。
 本作品は日本社会の精神的な歪みを抜きにしては成立しない映画である。マスコミが一般人を追い詰めるのは、読者や視聴者がそういう報道を望んでいるからに他ならない。家族それぞれの望みと、世の中の残酷な望みが互いに影響し合い、複雑な関係性を形成する。事件の発端となる出来事も、社会の望みに応えようとする子供たちと、それから背を向けて反発する子供たちが生み出した不幸だ。望みは屡々落胆と憎悪に発展する。本作品はそういった構図を等速の時間の中で立体的に表現してみせた。

耶馬英彦