「2人の絆の痕跡が現代まで残る」ファースト・カウ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
2人の絆の痕跡が現代まで残る
気負いとか気取りのようなものが全然ない映画だなと思った。そして、それがとても尊い美徳になっている。
西武開拓時代、とある街に流れ着いた2人の男、仲間に置いてけぼりにされた料理人のクッキーと中国人移民のキングルーは、街にたった一頭しかいない牛のミルクを夜な夜な絞り、甘いドーナツで稼ごうと画策する。一攫千金を夢見る西部開拓時代で、随分地味な計画を立てるものだ。2人の地味めな男がせっせと牛の乳をしぼり、せっせとドーナツを作って売りさばく。しかし、それが結構繁盛していまい、牛の所有者の名士にも気に入られるが、ミルク泥棒がバレるんじゃないかと気が気でない。
そして、やがて2人の行為がバレてしまい、逃避行が始まる。しかし、2人の男の絆は死んでもきれないのだ。ここを映像で描くショットがとてもさりげなくも美しい。二人の友情の痕跡が。
冒頭とラストがリンクするのだが、そこには人間は滅んでも豊かな大自然が残っていることを示唆している。牛と森と川、そこに映される自然の姿はシンプルに美しくて、自然に生きる人々の豊かな生き方というものがてらいなく映されているのがいい。この時代、おしつけがましくならないことは貴重なことだが、この映画はそれができている。
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