「搾取の代償と、人生の豊かさと。」ファースト・カウ sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
搾取の代償と、人生の豊かさと。
ファーストシーンで発見される2体の並んだ人骨。現代が描かれているのは、このファーストシーンだけなのだが、これが後々とても重要になってくるという仕掛けがすごい。
直後、時代が1800年代に飛ぶのが唐突過ぎて、最初は状況を整理するだけで必死だった。しかし、クッキーとキング・ルーの2人が出会って物語が展開し始めてから、それまでの状況も、現在の状況も、そして未来の状況も、途端に解像度高く見え始めて、俄然引き込まれた。
2人が、牛乳泥棒を話題にし始めると、観客は、ファーストシーンの2人並んだ骸骨を思い出す。「ああ、あの骸骨はこの2人なのかも…」
けれど、泥棒がばれるのはどのタイミングなのか、どうバレるのか…。2人揃って葬られる未来は不可避だろうと思われるので、観客は、どんどん勝手にドキドキを昂ぶらせることになる。
そしてその内に、気がついてくる。
「そもそも、黙って搾乳することはまずいが、命まで取られなくてはいけないことなのか?」
「この状況が資本主義そのものなのか」
「ビーバーは無限って言いながら、乱獲を続けるのは、牛乳の無断搾取とどこが違うのだろう」
「そもそも、生きられる分以上に金を稼ぐことの意味ってなんなのか」
この監督がすごいと思うのは、余計な説明を一切しないシンプルな提示によって、観客の中に、ポップコーンのようにどんどん物語を豊かに膨らませていく手腕だ。
銃を持った追っ手に追われる中で、力付き、横たわって目を閉じるクッキー。その横で、一瞬手に持った貨幣入りの袋を見たのち、ふっと力を抜いて隣に一緒に横たわるキング・ルー。
2人がそれぞれに相手を思い、育んできた友情が見たままに伝わってきて、余韻が残るいいラストシーンだった。
4:3のスタンダードな画角も、余計なものを描かないこの映画にあっている。特に、夜の室内のシーンは、まるでレンブラントの描く絵画のようだった。暗闇を描くのが本当にうまい監督だなぁと思った。
こんにちは
ふたりの素朴な友情がいいですよね
少なくとも二人は、相手を出し抜いて自分だけいい思いしようと思わない。成熟してない荒くれの社会でこんな感じだったから、二人揃ってああいうことになってしまったのかも、という哀しさがあったように思いました。
おっしゃるとおり余計な説明をしないところが解釈の余地を広げたと思いました。
コメントありがとうございました。おっしゃる通りですね。説明しすぎるとくどくて冗長になるし説明不足だと訳わからなくなるところの鑑賞者の想像力へ委ねる匙加減が絶妙だと思いました。