「分断の中で生産と友情の持つ意味を問う」ファースト・カウ penさんの映画レビュー(感想・評価)
分断の中で生産と友情の持つ意味を問う
西部劇というと、地平線がどこまでも続く広大な大地の中で、先住民たちと対峙して馬で闘う白人たちの勇姿を描くシーンを連想したりしますが、この作品は同じ時代を描いていても大分趣が違っていて、太陽の光があまり届かない鬱蒼とした森を徘徊したり、同じグループで移動しながら、空腹のあまり小さな喧嘩が絶えなかったり・・・。時代はさらに遡りますがアメリカ建国当時の先住民の王の娘と英国の侵略者との恋を描いたテレンスマリックの「ニュー・ワールド」と視点は少し似ているかもしれません。先住民は征服と対立の対象ではなく、白人と同じように豊かな階層がいるかと思えば、夢を求めて移動する主人公達のように貧しい階層もいて、存外人種差別の有無という意味でいうとフラットな印象を持ちました。
類い希なる付加価値を生み出すアイデアや技術をもっているにもかかわらず、生産手段を持っていないため、その生産手段を持ち主に正当な対価を払わずに借用して、利益をあげること。そのこと自体は「盗み」に該当するように見えますが、実はその境界は曖昧で白黒はっきりつけられない部分があるように思います。NYタイムズがOPEN AIを訴えたのもそれですし、米国政府が、ファーウエイなどの中国製通信機器を締め出したのも同じ理屈のように思います。結果としてOPEN AIもファーウエイも世界に新たな付加価値を生み出しているのは事実だったと思うのですが、その過程で生産手段の所有者に正当な対価が払われていない場合又は所有者の存立を危険にさらすような場合どうするのかという問題です。
この作品では、どちらかというと新たな価値を生み出そうとしている側に同情的で、共和党も民主党も含め米国全体が中国との対峙姿勢を強める中で、中国人を主人公の一人にもってきて、「パリの流行なんて関係ない。ひたすら働いて生み出すだけだ」という趣旨の台詞を語らせ、夢をもつ白人との静かな友情や交流・感情の動きをきめ細やかにかつ丁寧に描いているように思いました。
今年は米国大統領選挙。「アメリカの最大の敵はアメリカ」だそうです。分断の世の中で生産と友情の意味を問うているとでも言いましょうか。まさにインダペンデントムービーの面目躍如という感じがします。
ちなみに、設定は異なりますが、私は、やはり恵まれない環境にある男二人の純粋な友情を描いたジーンハックマンとアルパチーノのロードムービー「スケア・クロウ」を思い出しました。