「映画の冒頭とラストが見事にリンク」ファースト・カウ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
映画の冒頭とラストが見事にリンク
西部開拓時代のアメリカ、オレゴン州には、アメリカ人だけではなく、様々な国籍の人々が一攫千金を夢見て集まってくる。そこで行われるのは物々交換によって限られた富を奪い合うという原始的な手法だ。
物語は、乳牛の乳と小麦粉を練って油で揚げ、砂糖をまぶしてドーナツを作って荒んだ男たちの舌と心を潤そうとする料理人のクッキーと中国人移民のキング・ルーにフォーカスする。だが、そもそも2人のビジネスは犯罪の上に成立したものだった。
西部開拓時代の物々交換という斬新な視点、ドーナツの真相がいつバレるかとハラハラさせる展開、見どころはいくつかあるが、アメリカンドリームのかけらもないオレゴンの森で知り合い、意気投合したクッキーとキング・ルーが育む友情の意外な重みが、最高に心を打つ。しかも、それを表現するために映画の冒頭とラストを見事にリンクさせた手法が、この映画を忘れられない1本にしている。
なぜか日本では紹介される機会が少なかったアメリカ・インデペンデント界のトップランナー、ケリー・ライカートの最高傑作と呼ばれる本作。願わくば、賞レースを賑わせた昨年度から間を置かず公開して欲しかった。
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