劇場公開日 2021年6月11日

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「1日中でも観ていられる独特な優しいテンポが心地よい77分」逃げた女 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.01日中でも観ていられる独特な優しいテンポが心地よい77分

2021年6月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

結婚してから夫と1日も離れて過ごしたことがないというガミが夫の出張中に3人の女友達に会いに行くのを淡々と眺める作品。パッと見であっと思ったのは主役であるガミを演じるキム・ミニの佇まい。全く何の前情報も入れていなかったので映画が始まるまで気づきませんでしたが、これは彼女のパートナーでもあるホン・サンス監督作だったんですね。数年前に観た『クレアのカメラ』でも不思議な雰囲気を纏った主人公を演じていましたが本作でもかつての松嶋菜々子に似た風貌でトボトボと友人宅を渡り歩く半透明のような存在感は健在。確信を突くようなセリフは何もなく、ただ他愛のない話をしている間にどうでもいい来客が割り込んでくる日常をボーッと眺めているような77分間。普通ならカットを割りそうなところでゆっくりズームで被写体に寄っていくところがユニークで、それが独特なテンポを生み出しています。舞台がカンヌだった『クレアのカメラ』に対してこちらはソウル郊外の街角。街の雰囲気は全く違うのに作品中にゆったりと流れるかのような時間は同じ余韻を感じさせるもの。何かを直接訴えかけるのではなくて、映っている映像の向こう側に何かがあるわけですが別にそれが何か解らなくても構わない、そんな居心地の良さが感じられる作品で、終幕ではガミの心情に寄り添っているかのような錯覚すら覚える1日中でも観ていられるような優しい作品でした。

よね