「妙な哀愁」ディック・ロングはなぜ死んだのか? 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
妙な哀愁
とある事件をファーゴ風に語っていく。
あきらかにおかしいのに、つくっている人も演じている人も笑わず笑わせようともしない──を徹底すると、コメディになりえる。たとえばジャームッシュやジャーヴェイスのThe Officeみたいな感じ。
ポイントは「笑わせたい欲」を完全に払拭しにじみ出させもしないこと。ばあいによってはコメディだと認識される必要すらない。日本だとはねトびみたいな感じだが、総じてオフビートはあちら(海外)の方が得手だろう。
今最も旬の監督コンビといえばDaniels(ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート)。オフビートの(斜め)上をいく「なんだこれ」なクリエイターだと思う。
映画The Death of Dick Longはシャイナートの単独仕事だが「なんだこれ」なエスプリを含有しつつ、主人公が陸続として苦境にはまっていく演出が巧かった。
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バンドもやっている仲の良い三人の男。それぞれ恋人や妻子をもつ善良と言っていい男たちだが、秘密がある。
飲んでハメを外すと厩舎で馬を掘ったり馬に掘られたりする。
トリオ「ピンク・フロイト」はじつは獣姦仲間だった。
話は実際にあった事件から翻案されている。
獣姦は変態行為だが、男たちはそのこと以外は、いたって穏やかな家庭人であり、だからこそオフビートが加速する。
失策を糊塗しようとして、さらに失策をかさね、にっちもさっちもいかなくなっていく演出が上手だった。
太って緩慢な警官はファーゴを思わせたが、映画はコメディよりも哀感へ振っている気がした。
映画内の男たちは要するに酔ってやらかすわけだがその意味ではマンチェスター・バイ・ザ・シーに似ている。
むろん突飛な比較対象なのは解っているが、酔って途方もないことをやらかし、その後の顛末を哀感でつづっていく──ゆえに両者は近似プロットだった。
スイスアーミーマンやエブエブをクリエイトしたDanielsのテーマのひとつはおそらく人間がもっている複雑さだと思う。
獣姦を習癖としてきたジーク(Michael Abbott Jr.)だが、素は妻子を愛する穏やかな家庭人だ。であるなら、無垢な娘の視点から、獣姦で捕まった父親はどのように見えるのか、どのように納得すればいいのか。──その複雑さに対する哄笑と哀愁がDanielsの狙い、ではなかろうか。と思った。