「多分、あの事件を題材にしてると思う」ディック・ロングはなぜ死んだのか? といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
多分、あの事件を題材にしてると思う
タイトルのインパクトと興味を引くあらすじを聞いて、「絶対観たいな」と思っていた作品です。
結論。面白かった。
ディックの死を隠ぺいするためにあれこれ画策するアールとジークの二人の行動がことごとく裏目に出ていき、「あー!バレるバレる!」みたいな展開に笑いつつも結構ハラハラして楽しめました。
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アメリカの田舎町に住むディック、ジーク、アールの三人は仕事の傍らバンド活動をしており、その日もいつものようにバンド練習とかこつけて夜通し酒とドラッグで盛り上がっていた。しかし翌日早朝、ジークとアールの二人は血まみれの状態になったディックを近所の病院まで運び、ディックはそのまま帰らぬ人となる。その後もディックの死の真相についてジークとアールは様々な隠ぺい工作を行うのだが…。一体ディックの身に何が起こったのか。二人が必死に隠そうとしている真実とは…。
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あんまり言及している人が少ないですが、これって多分「イーナムクロー馬姦事件」を基にしてますよね。ボーイング社でエンジニアとして働く男が、農場の馬との獣姦によって死亡した実際の事件。
死因が外傷性の急性腹膜炎だったり、一緒に行為に及んでいた友人が病院まで連れていったり、結局友人は大した罪には問われずに釈放されたり。イーナムクロー事件と本作には多くの共通点があります。
本作ではそのイーナムクロー事件をベースに、前半では事件の隠ぺい工作を行うちょっとおバカな二人の男をコメディタッチに描いているのに対して、後半では世間的に肩身が狭い性的倒錯についてのメッセージ性の強い作風になっていたり。「真相発覚前」と「真相発覚後」で映画のテイストが違っていますね。
前半は必死に真相を隠ぺいする男たちが取る行動がどんどん裏目に出て自分の首を絞める結果になってしまったり、その場しのぎのウソがどんどん取り返しのつかないことになってしまったり。「なんでそんなウソついちゃうの!」「あー!バレちゃうバレちゃう!!」と、ハラハラする展開が多くて結構笑っちゃいました。
後半は前半のコミカルな雰囲気から一転。事件の真相が明らかになったことで妻から叱責されたり世間からの目が気になるようになってしまい、ジークが町を出るという展開ですね。確かにやっていることは普通ではありませんが、別に誰かに迷惑をかけているわけでもありませんし、犯罪でもありません。ディックが亡くなったのも事故ですし。「そこまで批判されるものだろうか」という思いが常に付きまといつつ、でもその性的倒錯を理解してくれるアールとともにジークが町を出るという展開には、ある意味ハッピーエンドな雰囲気がありました。
後半の、ジークが家族や警察から迫害を受ける描写は、昨今のポリコレ(性的平等)に対するアンチテーゼのようにも感じます。
最近は昔と比べればLGBTに対しては寛容になってきているように感じていますが、性的嗜好って男女の枠には留まりません。例えば物品や建物などの無生物に性的に惹きつけられる「対物性愛」であったり、現実の人間ではなくアニメや漫画のキャラクターに性的に惹きつけられる「二次元コンプレックス」、そして幼い子供に対して性的に惹きつけられる「ペドフィリア」などなど、数多くの性的嗜好が存在しています。私個人はこのような性愛もまたLGBTと同様に尊重されるべきであると思っていますが、何故かポリコレを謳う世の中になってもなお、これらの性的嗜好を持つ人たちは迫害を受けているように感じます。
「同性愛を差別するな」って言っている人たちは多いけれども、「ペドフィリアを差別するな」って言っている人はほとんどいません。ペドフィリアも同性愛と同じくマイノリティで、同性愛と同じく昔から理不尽な差別を受けてきているのにも関わらずです。私はこれはおかしいんじゃないかと以前から違和感を抱いていました。そんな私の違和感を映像化してくれたのが本作です。
本作には女性のパートナーがいるレズビアンの婦警が登場し、ディックの死について調査を行ないます。レズビアンであることは職場では周知の事実であり、同僚たちもそれを受け入れているように描かれています。しかし後半にディックの死因が発覚し、ジークが動物性愛者であると発覚した後、その婦警がジークに対して「変態野郎」と口汚く罵る場面や、警察官たちがジークを陰で嘲笑うような場面があるんです。レズビアンに動物性愛者を中傷させるというエッヂの効いた脚本、これは現代におけるポリコレのダブルスタンダードを見せつけるような皮肉めいた演出になっていると感じました。ここは凄い良かったと思います。
展開が遅かったり、中盤くらいでディックの死因が発覚してしまって後半間延びして感じたりするなどの不満点も正直ありますけど、それらを込みにしても十分観る価値のある面白い作品だったと思います。オススメです!!
モアイさん
フォローとコメントありがとうございます。
モアイさんのレビューも私とは違う視点で新鮮に感じます。こちらからもフォローさせていただきました。よろしくお願いします。
といぼさん 早速こちらにもお邪魔します。
この映画に題材になったであろう事件が存在していたとは!
正直その事件知りませんでした。
レズビアンの婦警に性的指向を罵らせているとの指摘、目から鱗です。その構造を全く見落としていました。
多分そのくだりの頃には映画に対する集中力を欠いていたのだと思います。
何だかよくわからんモノを見ちゃったなぁというモヤモヤした感覚を適当にレビュー書いて浄化したつもりでしたが、やっぱり名作だったのか?と少し不安になってきました。