「星ばあはイマジナリーフレンドかな」宇宙でいちばんあかるい屋根 スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
星ばあはイマジナリーフレンドかな
小説原作の映画です。うん、ストーリーと演者は良かったです。去年「新聞記者」でマイナー配給から中ヒットを飛ばした監督の作品として、少し期待していたのですが、演出としては、、、イマイチかな。
ストーリーは中3の少女ツバメの成長物語。家族や恋愛や学校のことで、人に言えない悩みを抱えるツバメは、ある日、ビルの屋上で空を飛べる老女、星ばあ、の出会う。傍若無人な星ばばあに振り回され、色々とぶつかりながらも、成長する物語。
星ばばあは、きっとツバメにしか見えない「イマジナリーフレンド」なんですよ。原作読んでいませんが、そういう伏線もありましたよね。なんで、実在させて、殺して、お涙頂戴にしちゃったかな〜。
この作品には「少女の成長」がテーマにあるはず。ここで出てくる男は、ツバメの元カレはグレたクズだし、憧れのトオル君の姉貴のカレはDV野郎、ツバメのお父さんも女房に逃げられる、とみんなダメ男なんです。だから、ツバメという鳥の名を持つ少女は、王子様の迎えなど待つのを辞めて、自らの翼で巣立つ。というのが大きなテーマ。
ツバメの巣立つをサポートするのが、彼女にしか見えないイマジナリーフレンドである「星ばばあ」なんです。
ちょうど、魔女の宅急便のヒロインと黒猫の関係と同じ。ヒロインのキキの成長と共に、黒猫キキとは会話が出来なくなる。でも、黒猫を殺さなくてもいいじゃん!
このツバメってヒロインが、まるで宮崎駿のヒロインと同じように健気で一途。それって今の時代も受け入れられるのかな〜?不幸な境遇に健気に耐えて、最後には王子様に幸せにしてもらおう、っていつの時代のディズニーかよ、と。
ツバメって、今の家に居場所なく、生みの親は新しい家族を持ち、鈍感トオル君は振り向いてくれず、学校では半グレ元カレ仮面友達、ってどんだけ不幸な少女?って設定。だけど、イマジナリーフレンドの星ばばあに「強くしたたかに生きろ」と言われて奮い立ち、自立するんでしょう。しかも、育ての母のように愛に生きるではなく、芸術家として自分を捨てた生みの親の道へ進む、って結構、踏み込んだテーマだな〜と。ただ、それを「星ばばあとの悲しい別れ」で泣きの映画にしてしまったのは、ちょっともったいない。
清原果耶は、意外にも本作が初主演なんですね。朝ドラとかによく出ているようでメジャーな女優さんかと思っていました。まあ、演技は安定しているし、可愛い。将来的には綾瀬はるかのようなポジションになることでしょう。
で、裏ヒロインが星ばあの、桃井かおり。樹木希林が生きていればやっていたような役どころ。桃井かおりが演ると艶っぽいばばあになるんですが、それも味ですな。
ちょっと、演出というのか、撮り方なのか、編集なのか、もうひと工夫欲しかった。
役者が出てくる前のアバンタイトルも、キーワードになる「屋根」や、タイトルの「宇宙いちばん」とかをちゃんと、見せれ良いのに、適当な空撮。
星ばあが、いなくなるシーンも、最後の別れが夜で、次のカットも夜。普通は昼間のカットで「そうだ、今度、トオル君を紹介しよ。今夜、話そうかな」的な日常を入れて、夜の屋上で見つからない、って展開ですよね。それを夜→夜で繋ぐのは、、、
水墨画もなぁ〜、心情描写と絵がチグハグ。最初の生みの親の個展の時は、ツバメに気付かないなら、あの絵は雲雀にすべき。だいたいツバメってあんな風に電線には留まらないだろう。で、ラストの絵ではツバメが力強く飛ぶなり、自分たちの巣を持って幸せになったり、って韻を踏んで伏線回収が妥当かな。
あと、そもそもアニメ映画で撮って欲しかった。実写だとファンタジー要素が描けず、桃井かおりの演技で誤魔化していましたが、アニメなら、もっとファンタジーに出来て面白かったはずです。で、上記の通り、健気で可愛い清原果耶も良いのですが、幸せは自分で勝ち取るものよ!って、強くしたたかな少女を描いて欲しかった。
と、文句ばかり言っていますが、結構気に入った作品です。