劇場公開日 2020年9月4日

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「清原果耶ちゃんの"言葉すら不要 目の動き一つ全て伝えてしまう仕事"」宇宙でいちばんあかるい屋根 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5清原果耶ちゃんの"言葉すら不要 目の動き一つ全て伝えてしまう仕事"

2020年9月5日
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この作品には作られた伏線はない。でも、必然がある。SFチックな作り物語のはずなのに、確かに登場人物がこの世界に存在して、この世界でもがき苦しんで、この世界で成長したに違いない。そう思わせてくれる丁寧な脚本と演出、そして何より清原果耶ちゃんの演技に魅了される一本でした。

 思春期の中学生が、自分の生き方を模索するという点では、最近「はちどり」といういい作品を見ました。感受性の豊かさや進む道の危うさを経験したからこそ、最近こういう映画に感情移入しがちになってしまいます。本作は、父親と血のつながっていない母親と3人で暮らしていたところに、子供が生まれお姉ちゃんになるということだったり、年上の男の子への恋心だったり、どことなく不安げで、自分の立ち位置を下げて"見上げる"ような毎日を送っていた主人公に、桃井かおりさん演じる星ばあと出会い、心を通わせ、人生の先輩から説教臭く聞こえるようで温かいメッセージを受け取ることで、地に足がついて"対等"な目線、さらに"見下ろす"目線も覚えていくというお話かなと思いました。

 この"視線"の演出が、この作品の肝だと思います。映画の冒頭では、見上げるシーン、自転車で転んで空を見るシーン、坂道を上がっていくというシーンが多くあります。その後、星ばあとかかわっていくことで、伊藤健太郎演じる恋する大学生に対し、対等な目線で話せるようになります。その後、とあるシーンをきっかけに、お世話をしてあげる、つまり対等から見下ろす目線になっていきます。その頃には、これから姉になるという自覚が芽生えていたり、星ばあを物理的にも見下ろすシーンで成長を示唆しているのではないかと思いました。見下ろすというのは、見下げるとは違います。相手を良い意味で引っ張るというイメージ、またはあらゆるものを客観的に見れるというイメージです。これはあくまで一つの解釈でしかありませんが、すごい演出だと思います。

 星ばあとの直接的に最後にするやり取りも、間接的に最後にするやり取りも、非常に良いシーンで印象的です。直接的に最後にするやり取りでは、星ばあは見下げる、つまり主人公にあらゆる意味で地に足をつけさせる役割を担い終えたことを確かめるように踊り合います。そして、魂を継承するかのように数々の言葉を主人公に授け、今度は自らの未来を悟っていくかのように坂を下っていきます。涙なしでは見られない名シーンですし、清原果耶ちゃんと桃井かおりさんの最高の芝居合戦だったと思います。 間接的に最後にするやり取りですが、いわゆる"感動の押し売り"監督だったら星ばあの言葉を添えると思います。あえて、星ばあに語らせず、でも確かに主人公は星ばあからメッセージを受け取っているだろうというシーンに感動しました。

 "感動の押し売り"監督だったら繋がりでいうと(そんな繋がりはありません)、主人公が家族といわゆる言い争いをするシーン。あのシーンでそういう監督なら主人公は父親か母親に叩かれるのがお決まりというところで、本作の監督は父親に主人公の髪をなでながら「謝りなさい」と諭します。本当に素晴らしいと思います。ちなみに、父親から髪をなでられただけで思春期の女子は嫌がるだろうという指摘もあるかもしれませんが、この主人公は父親にも母親にもどこか負い目を感じつつも心底尊敬しているんだろうなと思わせるシーンがそれまでに何か所かあるので、自分は気になりませんでした。

 絵本のような美しい映像は本当に映画館で見るのが一番だと思いました。そして、何よりも主演の清原果耶さんの演技が本当に素晴らしいです。レビュータイトルはCreepy Nuts×菅田将暉の「サントラ」から拝借いたしましたが、視線を複雑に使い分け、何種類も涙の出し方を使い分け、何種類も口元のとがらせ方を使い分け、何種類も表情筋を使い分け、とことんリアルな演技をしているのがすごいと思いました。少し気が強いキャラクターなのに、嫌な感じがしない上品さも兼ね備えていました。もっといろいろな作品を見たい女優さんです。

不満点はほとんどないんですけど、強いて言えば主人公はどうしてあの元カレを好きだったんだってことと、その元カレがいろいろなところで関わってくるところがちょっと過剰過ぎたというかご都合主義過ぎたかなと。友達関係について最後にフォローがなかったのは、彼女が覚えた"見下げる"視点で上手くこなしてくれてるんじゃないかなと脳内補完しました。

 SFの短編絵本のような設定に乗れさえすれば、どの世代が見ても感動的な作品だと思います。最高でした。何度も見たいです。

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わたろー