劇場公開日 2020年9月4日

  • 予告編を見る

「ほっこりとするファンタジー」宇宙でいちばんあかるい屋根 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ほっこりとするファンタジー

2020年9月5日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 ほっこりとするファンタジーながら、藤井道人監督の正直でまっとうな世界観が心に響く感動作である。 ファンタジー映画らしく悪い人間は登場しない。 どの場面を切り取っても愛情があり思いやりがある。 特に桃井かおりの星ばあと主人公つばめのシーンがいい。 思わず笑みがこぼれるような楽しさと温かさがある。
 清原果耶は同じ藤井監督の「デイアンドナイト」で初めて見て、若いのに存在感のある演技に感心した。役名の大野奈々で歌った「気まぐれ雲」を聞いて歌の上手さに驚かされもした。本作品でも主題歌を担当して伸びやかな歌声を聞かせてくれた。歌の上手い若手女優と言えば上白石萌音だろうが、上白石萌音が愛くるしいタイプなのに比べて清原果耶にはどこかミステリアスなところがある。小松菜奈に似たタイプだと思う。
 本作品では主人公つばめを全力で演じているのが伝わってきて、その健気な演技に先ず感動した。つばめは思春期らしい迷いと思春期らしい吸収力で、変化する状況を受け入れ、そして乗り越えていく。決して優しさを失うことはない。主役らしい堂々たる演技だった。
 桃井かほりは名人の域に入ったかもしれない。演じた星ばあは、キュートでシャイでシニカルでエスプリに富んでいてどこかアンニュイという稀有なキャラクターである。桃井かほりはこの役がとても気に入ったのだろう、本当に楽しそうに演じていた。
 吉岡秀隆と坂井真紀の夫婦は優しさに満ちていて、つばめの優しい性格がこの二人の努力の賜物であることがわかる。いい子はいい親が育てるのだ。
 鑑賞中ずっと微笑んで観ていられる映画で、ささくれた心が癒やされた気がする。邦画のファンタジーとしては出色の作品だと思う。

耶馬英彦