薬の神じゃない! : 特集
スルー厳禁の極上エンタメ!掘り出し物の逸品が公開へ
中国医薬業界に変革をもたらした驚きの“ニセ薬事件”
中国映画にはあまり食指が動かない……そんな思いを刷新してくれる快作「薬の神じゃない!」が、10月16日に公開を迎える。
ジェネリック医薬品密輸入の実話を基に問いかけるのは「何が“ホンモノ”で、何が“ニセモノ”なのか」というメッセージ。社会的問題というヘビーな題材を扱いながらも、万人が楽しめる娯楽作品へと昇華した稀有な1作だ。
中国本土では“目がテン”になってしまうほどの驚くべき興行収入を記録。さらに“現実世界”にも多大な影響を与えている。このお墨付きは伊達じゃなく、見逃し=後悔となることは確実。だからこそ、二の足を踏んでいる場合じゃない。本作は「鑑賞必須案件」なのだ!
【物語】白血病患者のために未承認薬を密輸・販売!
実際に起きた“衝撃的事件”を痛快かつコミカルに描出
陸勇という慢性骨髄性白血病患者の男が、インドから安価な抗がん剤を購入し、同じ病状に悩む患者たちにも薬を販売した――これが映画の元ネタとなる「陸勇事件」(通称)だ。ここではオスカー受賞作に匹敵する物語の強度、エンタメ度をアップさせた要素を紹介しよう。
社会の闇に迫る!中国版「ダラス・バイヤーズクラブ」
本作の鑑賞者が一様に言及するのは、第86回アカデミー賞で2冠を獲得した「ダラス・バイヤーズクラブ」との類似点だ。両作品ともに“実録ドラマ”の体裁をとっており「未認可薬の密輸&販売」「患者コミュニティの形成」「権力・司法との対立」が描かれていく。
中国における海外製の薬品は、税金と仲介手数料が加わり、米国の倍以上になることも。特に難病の薬や抗がん剤は供給不足のため、かなりの高額になってしまう。本作は、その暗部にしっかりと言及しつつも、“笑い”を意識した印象的な語り口で進んでいく。
社会派としての側面、巧みなストーリーテリング――このバランスが絶妙だ。貧富の格差という社会問題とエンタメ性に富む物語を両立させた、「パラサイト 半地下の家族」を想起させるほどの出来栄えと言っていいだろう。
個性派揃いのキャラクターが“ヒーロー道”を突き進む!
実話ベースではあるが、“事実から改変したポイント”が作品の質を向上させている。陸勇をモデルとした主人公は、男性向けのインドの強壮剤を販売する店主チョン・ヨン。陸勇は白血病患者だったが、チョン・ヨンに持病はなく、店の家賃も払えず妻にも見放された“ダメ男”に設定されている。当初は金に目がくらんで密輸・販売業に着手するのだが、薬を絶たれた患者たちの悲痛な叫びを聞き、心を入れ替えていく。
そんな彼を支えるメンバーは、白血病患者が集まるネットコミュニティの管理人、中国語なまりの英語を操る牧師、不良少年などユニークな面々ばかり。彼らの行動理念は「不利益を被っても他者を助ける」というもの。チームの連携、次第に芽生えていく友情と絆が胸を熱くさせ、名もなき者たちが“大衆のヒーロー”と化していく展開に、きっと感動するはずだ。
本作が“中国映画界の代表的傑作”である3つの根拠
特大メガヒット、賞レース席巻、注目俳優陣の参加
「鑑賞必須!」の思いを抱くにはまだまだ……という方もいるだろう。しかし、ここで“スルー”へと傾くにはもったいない! 興収&受賞結果、キャスティングの妙を知れば、鑑賞意欲が一層刺激される!
[根拠①]興収500億円を突破する爆発的ヒット記録!
本作の中国公開は、2018年7月。公開3日間で9億元(約146億円)、最終興収30億元(約500億円)という桁違いの記録を叩き出している。
当時、最も注目されていた中国映画は「邪不圧正(原題)」(「鬼が来た!」のチアン・ウェン監督作)。同作は最終興収58億8000万元(約92億8000万円)だったため、見事下馬評を覆す形に。
さらに同時期公開の「ジュラシック・ワールド 炎の王国」(16億9000万元:約270億円)、「スカイスクレイパー」(6億7000万元:約107億円)といったハリウッド大作にも大差で勝利。並みいる強敵をボッコボコにした実績を持っているのだ。
[根拠②]金馬奨で3冠! 国内外の映画賞を多数受賞
第55回金馬奨(中国版アカデミー賞)では、主人公チョン・ヨンを演じたシュー・ジェンが主演男優賞を獲得。「SHADOW 影武者」のダン・チャオ、「迫り来る嵐」のドアン・イーホン、「象は静かに座っている」のパン・ユーチャン、「先に愛した人」のロイ・チウといった、大スターたちとの激戦を制した。
さらに新人監督賞、オリジナル脚本賞を含め3部門を制覇。また「川沿いのホテル」「斬、」「トレイシー」などが対抗馬だった第13回アジア・フィルム・アワードでは、助演男優賞を受賞。そのほか数多くの国内外の映画賞に輝き、名実とともに中国映画界を代表する作品となった!
[根拠③]ヒット作量産俳優×アート映画で魅せた演技巧者たち
主演シュー・ジェンは、多数のヒット作に出演し、近年ではジャ・ジャンクー監督作「帰れない二人」にも参加した実力派。また「ロスト・イン・タイランド」で監督業に挑戦し、日本円にして200億円を突破する興収を記録。「薬の神じゃない!」では製作にも関与し、再びヒット作の創出に貢献している。
また、アート映画で才能を発揮した俳優陣の出演も注目ポイントだ。「スプリング・フィーバー」のタン・ジュオ、「象は静かに座っている」のチャン・ユーらが胸を打つ芝居を披露している。
これでも“普通の中国映画”だと思っていたら大間違い!
フィクションのパワーが“現実”に影響を与えていた
最後にアピールしておきたいのは、検閲が厳しい中国で生まれた作品だということ。本来であれば日の目を見ることすらなかったのかもしれない。本作はその危機を乗り越え、中国に大きな“変化”をもたらした!
[影響①]時代設定が「過去」でも「未来」でもないという偉業
検閲大国・中国では、そもそも「現代社会を批判する」ような内容は許されず、たとえ製作にこぎつけたとしても、上映の許可がおりないパターンが大半だ。だからこそ“批判”を込める場合、時代設定を「過去」もしくは「未来」とする場合が多い。「あくまで“別の時代”における物語だ」と逃げられるからだ。
しかし、本作が描出するのは、ド直球の現代社会。作品の関係者は「いずれ上映中止になる」と覚悟していたらしい……。現代を生きるキャラクターによる批判的な物語――この特異性が功を奏し、18年の年間興行成績では第3位という快挙を果たした。
[影響②]首相&国営テレビもクオリティの高さに言及してしまう
公開当時、ある人物がこんな発言をしている。「『薬の神じゃない!』は社会問題を提起し、社会を進歩させた。このような作品が、もっと製作されてほしい。病人にとって、時間は命。可能な限り供給不足の薬品にかかる税金を少なくし、海外の製薬会社との連携をさらに深く進めていくべき」。
なんとこれ、中国共産党ナンバー2・李克強首相の声明だ。これに呼応するように、国営テレビ「CCTV(中国中央電視台)」も本作に関する報道を行った。首相や国営テレビが、プロパガンダ映画以外に言及&報道するのは異例の事態。ある意味“歴史的”なリアクションを引き出しているのだ。
[影響③]中国人の“意識”を変化させて、医療改革の後押しに!
映画の元ネタである実際の「陸勇事件」では、陸勇が「ニセ薬」を販売した罪で検察から起訴されるが、市民・関連団体から裁判撤回を要求するデモが発生。15年に起訴は撤回され、陸勇は釈放される。
この事件のてん末、そして「薬の神じゃない!」は、中国の人々に薬品・医療制度に関する問題へ意識を向けさせるきっかけに。これまで同様の問題に関心がなかった人々でさえ、自ら情報を得て、薬品販売の現状、医療制度の不備に注目し始めた。
その反響を受け、中国の医療改革は“国家の重要な課題”に。既に改革はスタートしている。社会への問題提起、法律の制定に寄与した韓国映画「トガニ 幼き瞳の告発」を思い出した人は少なくないだろう。
本作は“映画は世界を変えられること”を証明した。この事実だけでも「見逃しNG」の理由になるはず!