劇場公開日 2020年11月13日

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「【尊厳死と殺人の境目】」ドクター・デスの遺産 BLACK FILE ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【尊厳死と殺人の境目】

2020年11月14日
iPhoneアプリから投稿

今年7月、筋萎縮性側索硬化症(ASL)で安楽死を望む女性が、SNSを通じて知った医師二人によって殺害された。

安楽死を望んでいたことから、尊厳死と一時報じられていたが、医師二人は、女性の主治医ではなく、障害者や高齢者は死んだ方が良いなどと投稿し、優生思想を持っていたことが明らかになっている。

また、石原慎太郎元都知事が、ASLは業病、つまり、前世の罪によって現世で病を患うことになったなどと非合理的で反知性的な発信を行い、ASLに対して差別的な見方が強くあることも話題となった。

医師二人は、百数十万円の支払いを要求し、この金額を安いと発言したことが報じられていたし、石原慎太郎は、差別的発言をしたこへの批判に対しては口をつぐんだままだ。

この作品の犯人もそうだが、耐え難い苦しみを抱えている人に、自分の思想を被せて、殺害行為に及んだり、差別を肯定するような発言も決して許されることではないと強く思う。

ただ、NHKスペシャルが昨年放送した、日本人女性がスイスで安楽死を迎えるまでを追ったドキュメンタリーを思い出した。

この女性は、神経難病を患い、歩行や会話が困難となり、近い将来、自発呼吸も難しくなり、人工呼吸器が必要になると宣告されていた。

この病気は多大な肉体的苦痛も伴い、その耐え難い苦痛や自身の運命を悲観して、彼女は自殺未遂も繰り返していた。

そして、自ら自死の行動さえ不可能になり、スイスの尊厳死を斡旋するNPOに連絡、病状や考え方など厳しい審査を経て、安楽死が認められることになる。

家族は葛藤する。
姉妹のうち、受け入れること出来ない妹は立ち会いを拒んだように覚えている。
しかし、姉妹のうち二人は、葛藤の末、彼女を理解し、安楽死に立ち会うことを決心する。

スイスで、医師の最終意思確認を終え、彼女は姉妹と最後の言葉を交わし、これまでのお礼とお別れ伝え、ほんとうに静かに、そして、穏やかに、ある意味、眠りに落ちるよりあっけなく、スーッと息を引き取る。

NHKスペシャルは、こうした最後の場面も記録し放送した。

死とは何か、人間の尊厳とは何か、耐え難い苦痛とはどんなものか、死を選択するとは何か、残される家族の理解と葛藤とはどのようなものか考えさせられるシーンだった。

スイスは1942年に積極的安楽死を法律で容認した国だ。
その後、欧州の複数の国、カナダやアメリカの一部の州がこれを認め、21年にはニュージーランドで、合法となる予定だ。

長寿の社会で、大きな病気などを患わらない限り、人は死を意識することは少ない。

医学も高度医療も更に進化し、難病を克服する割合が高まった。
そして、社会の福祉に対する考えやシステムも進み、障碍者や、病気や事故で障害を負った方々が生きるためのインフラも昔に比べたら改善し、パラスポーツなどを通じて、勇気やモチベーションを高め、社会参画する障碍者の人も増えているように感じる。

こうしたなか、僕達は、それでも、苦しく絶望的な病気を患ってる人がいることを、キチンと認識できす、忘れがちなのではないのか。

耐え難い肉体的苦痛、治癒の可能性は皆無に等しく、自立した生活はおろか、ほとんど何も自ら行うことが出来ない人々のことをだ。

僕は、安楽死に賛成ではない……と思っていた。
思っていたというのは、他人事のように考えていたからだ。
しかし、NHKスペシャルを見て、葛藤を覚えた。

肉体的に多大な苦痛。
不治で、悪化するのみ。
自立生活どころか、自立呼吸など生命活動も困難。

人間の尊厳とは何か。
この問題提起は回答にたどり着くのが難しい。

アメリカのケヴォーキアン医師は、130人を安楽死させたと言われている。
これだけ聞くと、恐ろしい。
だが、それは病気でほんとうに苦しんでいる人を慮った気持ちからの行為とされ、保釈後は亡くなるまで安楽死の啓蒙に一生を捧げたらしい。

さて、映画は、オープニングがカッコいい。
昔よく見たデカコンビのシリーズドラマのようだ。
結構みんな点数厳しいなあ。
分かりますけどね。
僕は、去年見たNスペを思い返すことにもなって、ちょっと加点します。

ワンコ
さくらんさんのコメント
2020年11月15日

こんばんは。
私もそのNHKの番組見ました。あれは確かに尊厳死だと私は思いました。
この作品を観て、さやかちゃんの場合だけ考えることがありました。臓器移植を待っていることは、人の死を望んでいるってことだと犯人が言っていたこと、極論で考えたらそうなるのかもしれませんが、移植を待っている方々が、誰か死んでほしいって思っているとは考えたくはないです。

さくらん
グレシャムの法則さんのコメント
2020年11月14日

今晩は。
私にとって尊厳死を考える原点は、昔の映画『ジョニーは戦場へ行った』なので、どうしても比較せずにはいられませんでした。

グレシャムの法則
kossyさんのコメント
2020年11月14日

ワンコさん、おはようございます。
障碍者の中でも自殺すらできない人は可哀そうです。
俺もそのNHKスペシャルを見たような気がするのですが、いろいろ考えさせられました。
「ブラックジャック」においてのドクターキリコがいいキャラでしたけど、医療の虚しさを感じたり、生きることの意味さえ感じました。
やはり本作では犯人の過去が描かれてないから、単なるサイコパスと感じちゃいます・・・

kossy