「無頼に生きると言う程、無頼が活きてない感じであります。」無頼 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
無頼に生きると言う程、無頼が活きてない感じであります。
井筒監督の作品で最近では珍しいヤクザ映画との事で興味もあって観賞しました。
で、感想はと言うと、期待値をそんなに上げてなくてもまあまあのちょい下。
昭和を駆け抜けた一人の極道の半生を描いていて、昭和30年代からの昭和史はいろんな部分でノスタルジックで面白かったけど、個人的な感想では難点も幾つか。
・主人公との関係や名前とかが分かり難い。
主人公は松本利夫さん演じる井藤正治で、それに関わる人達が分かり難い。
名前も関係性もで、顔も似たり寄ったりな感じw
絶対的な主人公にその他個性的なキャラと言う感じではないし、とにかく人数が多いので前情報と言うか、予備知識が無いと難しいかな。
・ヤクザではあるが、ヤクザとしての怖さや切なさがなんか薄い。
井藤以外の様々な周囲の人間が不遇な境遇に見舞われているが、切なさや怖さがなんか薄いんですよね。
ヤクザの本質を問うてる作品で無いししても、「正義を語るな、無頼を生きろ。」との謳い文句にもっとアウトサイダーかなと思ったら、そうでもない。
叙事詩的作品かつピカレスクとしても振り切れが弱くて、無頼に生きろ。と言う程、無頼が活きてない感じ。
あと、ちょっと「春夏秋冬」使い過ぎじゃねえ?みたいなw
もう少し厳選した使い方だったら際立ったかな?と思うのですが、割りと至る所で使われ過ぎているので、少しクドい感じがするのと曲調が柔らかい感じでもあるので、これがテレビドラマならの主題歌なら問題無いけど、映画作品としてはなんかしっくりと来ない感じなんですよね。
井藤役のEXILEのMATSUこと、松本利夫さんが青年期からずっと井藤を演じているので井藤の人生がより濃く感じられるんですが、どうにも良い人感が滲み出るんよね。
報われない境遇から必然的にヤクザと言う人生を歩んだ井藤であるが、度胸と才覚と仲間に恵まれてのし上がっていく。
そして、還暦を迎え、ヤクザを引退し、遠い異国の地でかつて自身が歩んだ少年期の迎える様な子供たちを支援する第二の人生を歩もうとする。
無事に人生を全うするだけでヤクザとしては最上の上がり方。
ヤクザと言うにはなんかしっくり来なくて、政治家みたいであればしっくり来たのかな?って感じです。
井藤の伴侶で要所要所で手綱を握る佳奈役の柳ゆり菜さんは姐さんとして存在感が良い♪
ちょっと晩年の熟女感は薄いんですがw、実年齢から考えると結構どっしりとヤクザの姐さんを演じられてます。
ヤクザ映画の黄金期は1960年から70年代で、その中でも「網走番外地」「日本任侠伝」「昭和残俠伝」「仁義なき戦い」と言ったシリーズは名作として名高いですが、「無頼」も往年のヤクザ映画再びの意識があるとは思います。
でも主人公の井藤は高倉健さん程ストイックでは無いし、菅原文太さん程エネルギッシュでも無い。
また「アウトレイジ」や「仁義の墓場」程の過激描写もそんなに無い。
かと言って「極道の妻たち」程のちょっと変化球でも無い。
エンタメとしても何処か薄いし、実録路線でも無い。
ヤクザ、任侠、極道、暴力団と様々な呼び方があって、どの単語を使うかで作品イメージも変わりますが、言葉のイメージと並んで、作品の気質と言うか、カラーはとても大事。
ヤクザ映画黄金期の名優の方々が鬼籍に入られている中で、昔と比べるのはなかなか酷な部分はありますが、それでも昨今ではなかなか少ないヤクザ映画に観る側はそれなりに期待をしてしまいます。
純粋に井藤正治の半生として観た方が面白いのかもですが、どうにも群像劇としても人数出過ぎなぐらいに出まくってる。
Vシネでも無いけど、どちらかと言うとVシネ寄りな部分があり、どうにも中途半端にも写るのが惜しいなぁ。
ましてや井筒監督なら「ガキ帝国」の様に尖った作品かと観る側を期待しますわなw
井藤正治の半生としてはなかなか面白かったんですが、ヤクザ映画と言う感じではちょっと残念かなと言う感じが正直な感想。
あくまでも個人的な感想ではありますので、一意見として受け止めて頂ければ幸いです。