「それでも子は親にあの言葉を言えるか…?」MOTHER マザー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
それでも子は親にあの言葉を言えるか…?
長澤まさみが日本アカデミー賞主演女優賞を受賞したばかり。その他、国内の同賞を多数受賞した話題作。
いい意味でも悪い意味でも噂には聞いていたが、これは…。
シングルマザーの秋子。まだ幼い息子・周平を抱えながら、無職。
働きもせず、お金は親族から借金してでも無心。断られれば声を荒上げて逆ギレ。
金はパチンコなどギャンブルへ。
男も取っ替え引っ替え。ホストの遼と出会い、家に連れ込む。息子をパシリに。
息子を置いたまま、男と旅行へ。家ではガスや電気が止められ、周平一人…。
ようやく帰って来たら、遼とグルになって留守中親切に息子の面倒見ていた知人を脅迫して金の無心…。
自堕落、育児放棄、果ては犯罪まで。
生き方も考え方も一切共感出来ない。
『世界の中心で、愛をさけぶ』で白血球と闘うあのピュアな女の子が、まさかこんな毒親/毒女になろうとは…。(←あくまで役柄です)
しかし、それだけ長澤まさみの演技が凄いという事。これは聞きしに勝る…いや、それ以上!
ムカつくくらいのふてぶてしさ。
凄みのある熱演。
これまでの印象を覆す!
役者とは良くも悪くも、外見も内面も含め、自分の全てをさらけ出す。
そう言った意味では、長澤まさみは持てる力を出しきり、間違いなくこれまで~今後のキャリアの代表作になったと言えよう。
コメディばかりじゃなく、阿部サダヲもシリアス作品でだらしない役を演じさせれば抜群の演技力を発揮。
『日日是好日』や『星の子』などの感動作、『まほろ駅前』シリーズや『セトウツミ』などのユルいコメディも手掛けているが、やはり大森立嗣と言ったらヘビーな作風。本作でもその手腕は遺憾なく。
何処までも何処までも、とことん堕ちていく。
遼との間の子の妊娠をきっかけに、破局。
家族からも完全絶縁。
5年が経ち、周平は青年に成長、妹・冬華も産まれたが、変わらぬその日暮らし。果てはホームレス…。
どん底もどん底。底辺も底辺。
国の生活支援の手が差し伸べられる。住む場所、食事、周平には学校。周平と交流を深める生活支援員役で夏帆が好演。
が、どんなに良くしてくれても秋子は反発。
そんな時遼が舞い戻って来て、再び波乱の中へ。
そしてこの母子の末路は、最悪の悲劇に…。
どんなオチを迎えるのか、ほとんど前情報ナシで見たので、衝撃的。
何でも2014年に埼玉県で起きた事件がベース。
哀しく救われない。あんまりだ。
このオチを巡って、賛否両論も分かる。
ここで存在が大きくなってくるのが、周平だ。
幼少期の郡司翔も見事な演技を見せてくれるが、すでに新人賞総ナメ。青年期の奥平大兼が長澤まさみに負けず劣らずの存在感と難しい役所を素晴らしく体現。
本作はタイトルこそは“母”となっているが、真の主役は息子の周平でなかろうか。
母・秋子は親失格なのは否定出来ない。家族からも周囲からも疎外され…。
そんな周りに対し、いつも毒付く母。だけど本当は、孤独…。
守ってくれる人は誰もいない。…いや、いる。僕が。
母もそうかもしれない。頼れるのは息子しかいない。
本作は、息子から見た孤独な母の物語…。
…と、ただセンチメンタルには終わらない。
クライマックスのあるシーンの秋子の台詞には戦慄した。
これが、親の言う言葉か…!
産まれたその瞬間から息子は苦労続き。その心労、計り知れない。
それは秋子も同じで、本当に苦楽を共にした親子。
頼れるのは他にいなかった。
しかし、それが駆り立ててしまった。
子供は私のもの。
それでもお母さんが好き。
これは、決して赦されない罪か、歪んだ究極の親子愛か。
近大さん
コメントへの返信有難うございます。
この作品で、長澤まさみさんの女優としての魅力に唸った一人です。
次の主演作では、どんな役柄を演じられるのでしょうか。注目の女優さんです✨
近大さん
長澤まさみさん演ずる秋子の、誰か私を止めて!という悲痛な心の叫びが聞こえるようなラストシーンでした。
複雑な思いに駆られるインパクトの強い作品でした。