「非常に奥深い映画」MOTHER マザー 誠さんの映画レビュー(感想・評価)
非常に奥深い映画
リアルに存在した事件から着想した映画である事は、全体を通してより見る側に重くのしかかる。もし、これがフィクションであるなら感じ方は全然違うものになったように思う。
終始感じるのは、この子の背負ってしまった不幸とは一体なんなのであるのか?という問いだと思う。
そして、長澤まさみが演じた母親の人格が何故あそこまで捻くれてしまったのだろう?とも思う。
冒頭の親子4人の会話では、あまり大きく触れていないが、おそらく長澤まさみが演じた母親が子供の頃にまで遡ると、もっとこの事件の輪郭がハッキリと見えてくるような気がする。
ごく普通の人が感じ得るだろう愛情や社会性が彼女からは著しく欠如している。
殺害されてしまった祖父母は、本当にただの被害者なのだろうか?
そんな非常に難しい問いもこの事件、この映画のテーマとして感じられた。
場面、場面の細かな表情と仕草…
挙げればキリがないが、長澤まさみという女優がここまでの演技が出来るとは想っていなかった…というのが正直なところ。
そして殺害犯となってしまった長男役の彼の演技も素晴らしいの一言。
これだけの重たいシリアスなテーマの映画であるのに、途中しらけてしまう事が無かった。
ただ一つリアリティに欠けた一点は、
長澤まさみがどれだけ見窄らしくしても、
根本的に美人であって、これだけの美人が野宿や生活保護を受けるか?というと、現実的にはなかなか難しい…
誤解がないように言うと美人だから…という事ではなく、実際そこまで落ちてしまった人間の身なりや目つきというのは、もっと遥かに澱んでいるもので、最大限やっても彼女中に何処か完全に美を捨てきれないものを感じてしまった。
でも、結果その女を捨てきれない性分は、ある意味でその母親の実像と重なったのかもしれない。
稀な事件であるにせよ、この世界中の様々な国や地域で同じような境遇が普通に存在している事を改めて思い知った映画でした。