「受胎告知」MOTHER マザー ginさんの映画レビュー(感想・評価)
受胎告知
この映画には印象的なシーンが幾つかあるが、中でもラスト近くにあるシーンが
特別印象深く心に残った。
長澤まさみの後ろ姿、そこに夏帆の相談員が訪れる。
夏帆がそっと長澤の手を取り自身の口に持って行く。
まるで受胎告知のマリアと天使の構図を思わせる美しいシーンである。
マリアの愛と長澤の歪んだ愛。程遠い愛を持つ両者であるが
夏帆の行為は長澤の歪んだ愛とマリアの愛に似た何かを感じたからであろう。
マリアの愛が全てを受け入れる大きさを持つものであるのなら、
長澤の歪んだ愛もマリアの中に包み込まれていると言えるのではないか。
そこから人類愛などの話を進めて行くと、映画から離れてしまいそうなので、
その考えはベースとして保留して、映画に話を戻そう。
狭い歪んだ愛は害毒しか産み出せなかった。
祖父母殺害と言う最悪の帰結しか産み出せなかった。
しかし、夏帆の口づけを通してその歪んだ愛にも肯定するものがあるのだと
見直すよう促しているのかも知れない。
息子の母から逃れたい。母を抹殺したい。との想いはどこかに潜んでいたかもしれないが
それよりも母を愛する気持ちを何よりも強く持ち続けている。
それはどこから来るのか?
それが母の歪んだ愛から来たものなら、そこを見つめ深く探らなければならない。
「お母さんが好きだよ」の言葉は、どこかに救われるものがあるのではと再度考え直す
契機になる。これは観る者にも夏帆にも同時に起きる。
そこから導き出された結論は、長澤の息子への愛は自分自身への愛と通底しているので、
底無しの愛である。
その強さはマリアの愛に匹敵するものがある。
同等に並べるものでは無いと意見される方は多いと思うが、
あのシーンと長澤の表情から考えると、一概に否定出来ないところである。
そこで夏帆の告知とも言える口づけは、「あなたは間違っていたけれど、あなたの愛は救われるものを持っている」と言っているかに思える。これは受胎告知のシーンに引っ張られ
すぎた感想だと思うが、余りにも感動的なシーンなので、そこを軸にして語らざる得なかった事、了承して戴きたい。