劇場公開日 2020年7月3日

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「救いようのない人間のとてつもない不幸」MOTHER マザー kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0救いようのない人間のとてつもない不幸

2020年8月4日
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鑑賞方法:映画館

駄目な人間はどうやってもダメから脱け出せない。
経済的底辺とは別物の、人として最低の人物の物語。

「ぼく、お母さんが好きなんです。それもいけないことなんですかね…」少年周平(新人・奥平大兼)が放つこの問いは、全ての親に、全ての大人に対して突き付けられたかのようだ。誰か答えてあげてほしい。私は答えを持っていないので。

「わたしの子供をどうしようとわたしの勝手」だと本気で思っている最低女の秋子。汚れ役に挑戦した長澤まさみの迫真の演技。何度か見せる恐ろしいほど冷めた目付きが印象的だった。
そして、その情夫リョウがまた最低の男で、阿部サダヲがこれも見事に演じている。
この二人の人物に理屈は通じない。まともな思考回路を持たず、知性と理性が著しく欠落した生き物。こういう人間が実際にいるから世の中は怖い。
一方で、秋子の母親(木野花)は「そんな子に育てた覚えはない」と本人にではなく孫の周平(幼少期)に向かってヒステリックに叫ぶ。
「いや、あなたが育てたのですよ」と周平は言いたかっただろう。
親にして、この無責任さ。

「自分が働いて、ハタチになるまでは面倒を見る。それが親だろう」一時母子が身を寄せた住み込みの職場の雇い主が秋子を責める。ごく当たり前の苦言。
だが、秋子の思考は変わらないし、言われていることの意味を理解できていない。
そのくせ、助けてくれそうだと見て取ると、反省したふりをしてすり寄る狡猾さは持っているから不思議だ。

身体を使って男から支援を引出すロジックは本能のように身についているのだろう。
映画には描かれないが、何人もの男が秋子の上を通りすぎたと思う。ゴミのように捨てられたこともあったかもしれない。
だから、まともな男に出会ったときに、まともに生きる道を選択すればよかったのに、と思う。でも、その選択ができない人種なのだ。
援助者の傘の下からはスルリと脱け出すのに、ダメ男のリョウからは離れられない行動心理は理解不能。

そして映画の最後、児相職員の亜矢(夏帆)が秋子の手をとった行動の意味は解らなかったが、無表情な秋子を見てどう思ったのだろうか。
周平の言葉を伝えて秋子の心に響いた手応えを感じたか、逆に秋子を改心させられない無力さを思い知ったか。
このラストシーンで長澤まさみが見せる痴呆のような放心状態の表情は、周平を救うことも、秋子を立ち直らせることも、我々にはできないのだと知らしめるようで、愕然とさせる。

kazz
りかさんのコメント
2024年3月8日

こんばんは♪
ご返信いただきましてありがとうございました😊
以前TVのクイズ番組で問題に出てくる言葉自体聞いたことの無い内容で、優勝した人は雲の上の人の印象。
そういう人がいるし、秋子も存在するのですね。
いただいたコメントの最後三行、
こたえました💦

りか
りかさんのコメント
2024年3月7日

本当に深く探ったレビューですね。ああいう親実在するのですか。
なぜ阿部サダヲと離れないのだろう、と思ってました。
息子にその祖父母を○させる親と、今ニュースに出ている実の娘を薬で○す親と、どちらが、
鬼👹親でしょう?

りか
asicaさんのコメント
2021年1月6日

祖母が言う、そんな子に育てた覚えはない、はまさにそうで、映画制作者側の意図がそこに見えた気がしました。

最後の夏帆の行動は、もしかしたらですが、自分の母親もそういう人だった訳で自分の母親と重ねたのだろうかと思いました。

asica
零式五二型さんのコメント
2020年8月5日

素晴らしい文面で読み入りました😊

零式五二型
NOBUさんのコメント
2020年8月4日

今晩は。
 ”経済的底辺とは別物の、人として最低の人物の物語。
「ぼく、お母さんが好きなんです。それもいけないことなんですかね…」・・全ての親に、全ての大人に対して突き付けられたかのようだ。誰か答えてあげてほしい。”
 ー凄みのある、且つ的確なレビューだと思いました。ー
 私はこの作品の重すぎる内容に呑まれてしまい、上手くレビュー出来ませんでした・・。
 これからも、宜しくお願いいたします。
 では、又。

NOBU