「彼を哀れには思わない。」MOTHER マザー Rewind Thatさんの映画レビュー(感想・評価)
彼を哀れには思わない。
とにかく惨めなかわいそうな人たちがいっぱい出てきますが、主人公であるシュウヘイは一貫して純そのものでした。
ああいうどこにいても光が当たっているような人は、どこまで酷い目にあっても観ているこっちは安心してしまいます。懲役15年は大変に長い刑期ですが、残酷ですがこのくらい時間がないとあの母親の支配からは逃れられない、必要な時間だと思います。これは私の実際に現在服役中の友人と文通を通して感じたことですが、刑務所はとても有意義な勉強や運動を行える場所であるということです。もちろん反省が第一の目的なのでしょうが、それと同時に人をもう一度信じてチャンスを与える場所であるようです。シュウヘイは間違いなく刑務所で初めて本を読み、まともな教育を受けて仕事を身につけていくでしょう。そして母親の支配から離れて、悲しいことですが刑務所で真の精神的な自由を得るはずです。自分がどういう状態にあって、何をしたのか、考える時間はいくらでもあります。彼は自分を許し、人生をやり直せるはずです。私にとってもはやあのラストは救いに感じました。
というより、シュウヘイのような人間は大体どこへ行っても何とかなります。あのような人間が腐っていくのを人間は黙ってみておられないのです。映画の中でもどの状況でも彼には味方がいました。非常に不幸な境遇が重なり、あのような事件になりましたが、あれはどう考えても母親の洗脳のせいでしょう。何故適切な医療が裁判に反映されなかったのか不思議でなりません。
どちらかといえば母親の方が哀れに感じました。彼女はどんな状況でも満ち足りることなく現状を破壊し続けます。そうせずにはいられないのでしょう、彼女にも適切な医療が必要です。
どこへ行ってもどうにかなる主人公と、どこへ行っても上手くいかない母親の対比がとても胸に刺さりました。
長澤まさみさんは明らかの凄い演技でした。阿部サダヲさんもシュウヘイ役の方も、他の役の方たちも本当に素晴らしい演技でした。とても面白い映画でした。
実際の彼は今 塀の中で しばしの安息を得ているのだと思います。が、間も無く出所予定の母親が妹を見つけ出して売春させるのではないか、それを危惧していると手記で読みました。