劇場公開日 2021年2月19日

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「これは俺たちの話ではない」あの頃。 takfさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0これは俺たちの話ではない

2021年2月24日
iPhoneアプリから投稿

プロットとしてはよくあるやつ。
この手の話は、徹底的なリアリティを持ってまず登場人物たちをスクリーン上に「実在」させることが重要になる。
その点、同じく公開中の「花束みたいな恋をした」などはディテールに穴が無く大成功していると言える。
本作については、実話を元にした原作の映画化であるにも関わらず、どうにも乗り切れない。

特筆したいのはウルトラマンをネタにしたやりとりである。メインの彼らは2000年代に青春を過ごしていることから、ウルトラマンを観て育った世代では無い。一般教養の範疇外のはずである。
この年代の若者たちがウルトラマンをネタにすることは、よほど偏った嗜好の持ち主同士でなければ有り得ない。
劇中において数あるDVDやフィギュアの中に特撮物を少しでも忍ばせておくなりしてあればまだ理解できたかもしれないが、そのような匂わせ演出は無かったと思う。

ここで透けて見えるのは、「オタク」というものを一塊に扱っている感覚である。
これはあまりにも雑だし、登場人物の造詣がぼやけてしまう。「何かを好きになる」という普遍的なテーマを描くためには、登場人物のリアリティを持って観客の心を彼らの人生に乗っけることが不可決だが、個人的にはここで足掛かりを失ってしまった想いであった。
実在の人物なのかもしれないが、劇中に彼らは実在し得なかった。
そこから先はコントを観る感覚である。

もう一点、これは事実なのだろうから仕方が無いところだが、本作のメインキャストたちは自らの手でトークライブを主催し、一定のファンすら獲得しており、オタクカーストにおいて結構な上位に位置している。
活動に対する葛藤もあまり無い。
この事実は、彼らへの共感ひいては作品への共感に対する高いハードルとなっている。
なぜなら、多くの人にとっては「向こう側」の話だからである。
彼らは彼らとして、客席側にいるマジョリティの視点をもっと入れるとか、遠巻きに見ていることしかできないような寂しい俺たちにスポットを当てるなどの目くばせが至らないため、ツッコミの無いボケをひたすら見せられているようなメリハリの無さを感じてしまう。
独りでコンサートに来ていた女教師の物語こそもっと観せてほしいところである。

最後に、ついに主人公が憧れの松浦亜弥と対面することになる握手会において、そっくりさんを出したのははっきりと否定しておきたい。
松浦亜弥は存命の人物である。
本人を出せないのであれば、後ろ姿に止めるなど工夫して欲しかった。
最も盛り上がるべきシーンで、明らかに松浦亜弥ではない松浦亜弥を見せられたところでかなり興醒めしてしまった。
まさにコントである。

今泉監督は「執着」をテーマに描いてきた監督と言える。
そういう意味では本作は腕が鳴る題材だったと思うが、「愛がなんだ」のようなキラリと光る過去作と比べれば凡作と言わざるを得ないだろう。

MACD