劇場公開日 2020年11月6日

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「夫婦でも家族でも一人でも。」おらおらでひとりいぐも xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5夫婦でも家族でも一人でも。

2021年7月12日
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タイトルは言わずもがな宮沢賢治の詩「永訣の朝」の一節。でも意外、明るいテイストの映画でした。
主人公・桃子さんは最愛の夫を亡くし、一人生きていくことを余儀なくされた女性です。愛別離苦の苦しみ、『ノマドランド』の主人公と重なります。でもこちらは少し違う角度で、哲学的宗教的テーマ「なぜ生きるか?どう生きるか?」を、深刻ぶらずに描いている。沖田監督は、挑んでいますね。オリジナリティにこだわった表現。そこがいいと思います。田中裕子さんの飄々としたおかしみ。よくハマっていました。作風は賛否両論でしょうが、沖田監督、応援したくなりました。

最愛の男性と結ばれ、添い遂げた桃子さんですが、夫が亡くなった時「一点の悦びがあった。」と自分への告白。ここが刺さりました。
男性には不都合な真実。でも多くの女性に同じような気持ちがあるかもしれません。親に仕え、夫に仕え、子に仕え、そしてようやく今の自由を手に入れた。良き夫婦こそ二人三脚、相思相愛でもそれは足枷になります。桃子さん、本当は自由が欲しかったんだ(気のせいかも?)、と自分の気持ちに向き合っていく。
でも如何せん、自由に不慣れで、せっかく手に入れても孤独感は寂しさ1、2、3というヘンテコな自分の幻影となり、桃子さんにまとわりつきます。

でも優しき男性にいつも見守られ生きてきた、平凡で可愛い女性。愛より自由が大事と叫んでみても、ずっと独身で生きていくようなタイプではない。未亡人という時間は、愛する夫が自分にくれた報賞だ、という言葉。自由は与えてもらえる(良き妻でおつとめを終えれば)、そう思えるのはやはり恵まれていた証拠。
人のために生きてきて、自分は何か成せただろうかと後悔しそうになりながら(ちゃんとこども二人、孫もいる)、自分とか自由とか言っても、結局人類という大きな流れのほんの一部に過ぎない、という悟り。仏教でいう諸法無我、有無同然。

はたから見たら独居老人、気の毒に、と見るひともいそうですが、実は最高の境遇。理想の境地。でもまだ桃子さん自身がそう思えるような、思えないような。張り合い無さそうな顔の時もあり。これもノマドランドと同じですね。どちらも女性原作ならではかも。お一人さま時間を愉しめれば、豊かな人生だったと、最後に自分に言えそうです。男性やその他の性の方々の視点からは、どうでしょうか。
自由でいながら、安心で優しく温かい。
これは真逆要素かな。難易度高そうだけれど、目指してもいい気がします。

xmasrose3105