時の行路のレビュー・感想・評価
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静岡県の大手自動車メーカー工場で働く五味洋介(石黒賢)。 ベテラン...
静岡県の大手自動車メーカー工場で働く五味洋介(石黒賢)。
ベテラン旋盤工の五味は、この工場では古株の方で、新人社員の現場教育なども任されている。
しかし、彼は派遣社員であり、工場を一歩出ると、派遣会社が用意した古いアパートの一室でひとり暮らしているのだ。
というのも、故郷の青森・八戸でリストラに遭い、妻子を妻の実家に預けて、働き口を探した結果の現在の立場だ。
そんな生活を続けていた2008年晩秋、米国からはじまったリーマンショックは日本にも到達し、経済状況は悪化。
五味の勤める自動車メーカーも「非正規労働者の大量解雇」を行い、契約期間中であるにもかかわらず、五味たちは職を失ってしまう・・・
といったところからはじまる物語。
その後の展開は、不当解雇を訴えて戦おうをいう全国規模の労働組合の誘いがあり、当初は渋っていた五味であったが、会社側の不当に憤りを感じ、馘首された正社員も含めて組合支部を結成、裁判で争う・・・となる。
その間、離れて暮らす家族(妻を演じるのは中山忍)との問題も描かれていきます。
映画で感心(関心)したのは、仲間たちと戦う五味の姿ではなく、家族や周囲の人々の描き方。
組合活動などしてても報われない、ただの努力損、八戸に帰ってきて地元で就職して金を稼いでほしい・・・という家族。
周囲は・・・お宅の旦那さん、組合を作ったんだってね、(そんなウエに歯向かうなんて、エラいこと)、と白い目を向ける。
まぁ、昔からの光景なんだけれども、「庶民はお上のいうことに逆らわず、自分で自分の食い扶持を稼いでいればいいんだ(もしくは、稼ぐしかないんだ)」といった諦めのような、思考停止のような雰囲気が描かれていること。
俗に「自助、共助、公助」というが、どうも日本には、自助しかないんだ、という雰囲気が蔓延しているような気がしてなりません。
自助を「自己責任」と言い換えると、「自己責任、共無責任、公無責任」となるのだけれど。
で、五味たちが裁判で勝利すれば快哉を叫びたいが、結果としてはそうはならず、やるせなさが募ります。
五味たちが訴え出た相手は大手自動車メーカーで、裁判所としてはそれは筋違い。訴えるならば、直接の雇用先である派遣会社ということになろうが、派遣会社が五味たちと雇用契約を結んでいたかどうかは怪しく、いわゆる登録社員(仕事があれば斡旋します的な)関係だとすると裁判で勝てるかどうかは微妙。
ということで、しわ寄せは弱い方、弱い方へといってしまいますね。
といろいろ考えてしまいます。
映画的には、神山征二郎監督には珍しく手持ちカメラの多様や出演者たちのドアップがあったりと、予算的に苦しかったことが伺えます。
音楽が少々うるさかったのには閉口気味。
演技陣では主役の石黒賢が好演。
メーカー側の若手総務部社員を演じる渡辺大も、短い出演ながらも印象に残りました。
なお、本作は2020年の製作、小規模劇場公開されたのち、各地のホールを中心に上映されているようです。
自縄自縛
2008年12月、大手自動車メーカーから突如解雇された派遣社員達が組合に加入し闘争する話。 あらすじに記されている青森でリストラの話はなく、静岡県は三島にある業界最大手のミカド自動車で働いているところから話はスタート。 働き始めて4年目、契約更新したばかりの主人公他多数の派遣社員達が、契約期間が残っているにも関わらず突如解雇を言い渡されて展開していく。 略したら有名な某組合と同じ名前の組合で、強気に交渉して行くけれど…。 確かにそれは違法だし、契約期間分の補償はわかるけれど社員登用とかはかなり厳しいし、裏でのことは別として酷いのは派遣会社。 派遣や期間員がどういう処遇のものか判っていた筈なのに、家族と天秤にかけるとか、ある意味、組合側の思惑に良いように踊らされた様にもみえる。 実際にもそういう話はあったらしいけど、労災云々はあの程度の立場の人間が言うのもわけが判らないし、このストーリーとは関係ないし、契約解除が決まったとはいえ、仕事をサボってキャッチボールとか、サインしたのを人のせいにしたりとか、言いたいこと、やっていることは判るけど、演出が安っぽく煽りすぎに感じてしまったし、特に意外性もなくて、映画としての面白味をあまり感じなかった。
観てみよう
今また、「コロナショック」で働き者の雇用が悪化している。「リーマンショック」の解雇に立ち向かった純粋無垢な男と家族の物語。今でも変わっていない。家族と葛藤する男。ハッピーエンドにはならないが、絆は固く結ばれている。秀作。
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