劇場公開日 2021年4月2日

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「人生は馬鹿馬鹿しく、エロは物悲しい」ゾッキ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人生は馬鹿馬鹿しく、エロは物悲しい

2021年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 断片的な場面を集めてオムニバス的に繋げた映画だが、エロや暴力などの不真面目とされるテーマに大真面目に取り組んでいる感じがとても爽快である。世界はどうか知らないが、日本ではセクハラという言葉が一般的になり、セクハラ防止のためのセミナーまであって、大企業の管理職が否応なしに受講させられていると聞く。どうせ、どんな言葉や行動がセクハラになるかの事例をたくさん見せられて、皆さん気をつけましょうで終わるやつに決まっている。講師は多分女性だと思うが、これもセクハラか。
 セクハラに限らず、口は災いの元というのは昔から真実だったに違いない。「物言えば唇寒し秋の風」という芭蕉の俳句まである。しかし言いたいことを言わないのは業腹だ。たまには思い切りシモネタの話をしてみたい。ノリのいい若い女性がいたら最高だ。
 しかしセックスの話は禁忌みたいなところがある。職場で昨夜の自分のセックスの顛末を事細かに話すなどといったことは出来ない。休憩時間で親しい同性の同僚なら大丈夫かもしれないが、話した相手が話の内容を吹聴しないとも限らない。男性だけではなく女性同士の話でも、昨晩〇〇くんとしたらこれが粗チンでちっともよくなかった、などという話が学校や会社で広まったら、〇〇くんは転校するか退職するしかなくなるかもしれない。
 フランス映画では割とセックスがオープンに語られる。アメリカの映画でも母親が娘にコンドームを渡したりするし、年配女性が旦那に飲ませなさいと友達にバイアグラを渡すシーンも観たことがある。性がオープンであれば性教育もオープンだろうし、性欲に対しても寛容だ。日本のテレビ番組で不倫について各国の女性にインタビューしているのを見たことがあって、フランスの女性が「好きになっちゃったんだから仕方がないじゃない」と答えていたのが印象に残っている。男女ともに不倫にも寛容なのである。
 日本ではそうはいかない。いろいろ制約があったりタブーがあったりする。つまらない世の中だ。本作品はそういう日本のタブーを笑い飛ばすのがテーマだと思う。嘘を吐かない、余計なことは言わない、身の程を知って清く正しく美しく生きるという見えない規範が我々を縛りつける。
 人生は馬鹿馬鹿しく、エロは物悲しい。人生は選択の連続であり、ときとして人は選択を間違えるが、他の選択があったと考えるのは意味がない。願わくば正しい選択であったことを祈りつつも、これからは世間を気にしてではなく自分の望む選択をする。いつもそう思ってきたのに間違えてばかりだ。
「情欲を抱いて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである」(マタイによる福音書第五章)というのが聖書の教えであるが、情欲を抱いて女を見る者のための商売は、イエスの頃から現代まで、変わらない隆盛を保っている。イエスの頃に数百万人だった世界の人口は、2020年では75億人を超えている。きれいごとでは人類の人口増加はなかった。
 清く正しく美しくエロを語ろう。恋は要するにエロだ。流行っている歌の殆どが恋の歌だから、つまり歌はエロだ。エロをきれいな言葉で装飾したのが流行歌なのだ。サザンオールスターズは恋がエロであることを隠そうとしない歌詞で人気を博した。本作品も飾らないエロスの表現で人気を博してもおかしくないのだが、日本のエロが物悲しすぎて泣けてくる。

耶馬英彦