「金が動く」エルヴィス U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
金が動く
史上最も売れたソロアーティストらしい。
今も、なのだろうか?
Michaelさえ及ばないのだとしたら、当時の環境を思えば驚異的で神がかってる。
その本人とELVISにそんな伝説を与えたプロモーターの物語だった。
壮絶だった。
語り部をプロモーターにした構成が、裏と表を対比させ物語に厚みをもたらしてるように思う。
観客に向かうELVISと、彼を通し金に執着するプロモーター…ドリームではない現実を映し出す。
商売であり、金が動き富を産む事が原則であり、真理であると言わんばかりだ。
全編通して楽曲が鳴り響く。
前半は台詞の方が少ないような印象だ。その旋律に誘われ作品世界に引き込まれていくような…熱狂の渦中に埋没していくような感覚があった。
昨今、アーティスト達の生涯を描く映画を何本が目にするけど今作の主人公も素晴らしかった。
トランス状態とでもいうのだろうか?
アーティスト達が意図しない領域で発言した表現やアクションを再現してみせる。
彼らの中には明確な筋書きが前提としてあるのだ。脚本が。ここでこうなるという指示が。
…悪魔の如き才能だ。
本作の公開事、別にエルビスに興味もないしなとスルーしてた。他に観たい作品を優先してた。
すっごく後悔。映画館の大音響の中で観るべきだった。彼の功績を。彼の残した影響を。
まだまだ差別が根強く残っていて、当時は人種融合防止策なんてものがある程に分断されていた社会。
それは音楽にも適用されている。そこに彼は爆弾を投下した。カントリーとR&Bの融合。
牧歌的なカントリーミュージック。それはそれで良いのだけれど、きっと黒人が歌う事は許されない。
それと同様に躍動的なR&Bを白人は蔑み歌う事もなかったのだろう。
数奇な運命を経て、彼は白人でありながらR&Bを歌う事に躊躇がなく、そして声を持っていた。
禁忌の境界を破壊したロッカーが彼だった。
驚く事に、当時のELVISの楽曲を全く古いと思わない。どころか今の楽曲と何ら遜色がない。ルーツはELVISにあったのかと思うくらいだ。
ベガスのホテルでアドリブなのか何なのか、ピアノソロから始まるJAZZとも思える楽曲はとてもとても楽しい。座して観てるのがもどかしい程に感情を揺さぶられる。下着をステージに投げ込む女性たちの心理が分からんでもないのだ。
あてられる。
その旋律に、歌声に、そのパッションに。
これが…音楽の力なのかと思う。
昔とは社会の構造が違うから、ELVISのようなアーティストは生まれにくいのだろうけれど、それを差し引いたとしても不世出のアーティストだと思う。
そして、今なおカバーされ歌い継がれる楽曲たち。
ゴーストの主題歌とか、ハウンドドックとか、題名は覚えられなくても知っている音楽の多い事多い事。
ちょっとセクシーなもみあげのおじさん等と認識してた過去の自分が恥ずかしい。
ラストのシーンは、ELVISの最後のステージの映像なのだとか。喋ってる時は明らかに不調を思わす声なのだけど、歌う時は全く違う。
口の50cm先から声が出てるのかと思う程、パンチがあり明瞭でかつ、とてつもなく甘く優しい。
あんな歌声、聴いた事ない。
彼の後にも先にもELVISは存在しないのだと思う。
生の彼の声にあてられたら…どんな体験をしたのだろうかと、そんな事をふと思う。
その影を担ったトム・ハンクス。
さすがであった。
このプロモーターも天賦の才があったのだろう。晩年は金に狂わされたみたいだけれど。
私物化してると言われても仕方がないようなエピソードの数々で…だが彼がいなければ稀代のアーティストも誕生しなかったのだろうと思う。
当時の社会情勢も興味深くて、ケネディ暗殺により生まれた楽曲のエピソードとか、よく出来ていて…キング牧師が「苦しい時にこそ、歌え」と言った事から発想して曲ができる。
白人の大統領が殺された時に、黒人の指導者の理念を元にアーティストとして成すべき事を成す。
図らずも差別の境界線の上にたつかのようだ。
麻薬をやった事はないけれど、まるで麻薬のように彼のステージに吸い寄せられたりもするのだろう。
現に彼の歌ではなく、歌声を聴きたいと欲する自分がいる。生命力と反骨心…ホントにソレと思う。
見事な作品だった。