「思いの外、楽しめた」エルヴィス キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
思いの外、楽しめた
アラフィフの僕らの世代でさえ、エルビス・プレスリーって、曲や映像は見聞きしてきたけど、やはりデフォルメされたまさに「キャラクター」であって、かなり悪い意味で「イジラレ」の典型だったので、今回実際にチケットを買って劇場で席についても、どういうスタンスで観るべきかフワフワしていた。
でも、観て良かった。
メンフィスという街に象徴される様々な出来事が、彼のキャリアともしっかりリンクしていて、白人を主人公に置きながら、しっかり人種差別への批判も訴えている。
音楽も現代風のアレンジがしてあって、テンポの良い細かなカットと盛りだくさんの情報で畳み掛けてくる演出のおかげで、比較的長い映画だけど、飽きずに観ていられた。
現代のポピュラー音楽に多大な影響を与えた一人のミュージシャンが、実は一人の悪徳マネージャーによって飼い殺しにされていたという事実。
実際のマネジメントはその多くが的をハズレていたのに、エルビスの才能の発露によって最後には成功に終わるものも多かった。
そんな、類い稀なる才能や夢や栄光が、個人の欲望と時間の流れに呑み込まれていく切ない話。
でも決して湿っぽい悲劇ではない。
パフォーマンスシーンの熱量も圧巻で、主役も脇役もすごい。
若い女性たちが我を忘れて叫び出す最初の舞台、「踊るな」と言われて立った彼が小指を立てるあのステージ、クリスマスのテレビSPなど、そのすべてがワクワクする。
ほとんどがどこかで聞いたことのある曲だし、エルビス・プレスリーを知らなくても、音楽映画として、またアメリカ社会を語る映画として楽しめる。
冒頭、ラストにも現れるエルビスのロゴや金色で万華鏡みたいなラインストーンビカビカの装飾ギミックも気持ちがいい。
役者陣も好演。
主役もいいけど、やっぱりトム・ハンクス。
何も知らないエルビスを「出口に連れていってやる」といって連れ出された場所が「金色の牢獄」だったという皮肉も、このおじさんの人懐っこい笑顔と合わせると、怖ささえ感じてしまう。