マトリックス レザレクションズ : 映画評論・批評
2021年12月17日更新
2021年12月17日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
あれから20年。次なるステージを極めつつ、過去を愛おしむ胸熱のシリーズ最新作
第1作目から22年の時を経て「マトリックス」の最新作がついに完成した。映画史上かつてないクールなビジュアル、ガンアクションとカンフー、オタク文化とハリウッドの融合など、斬新な要素を詰め込み、仮想現実と人類の自由を描く画期的なプロジェクトとなった「マトリックス」。「1」ではネオの覚醒、「リローデッド」ではネオの存在意義とトリニティとの愛(元祖セカイ系か)、「レボリューション」で人類の存亡と最終決戦を迎える壮大なトリロジーは、トリニティとネオの死によってシステムの再構築、ザイオンの再生と人類の解放によって、物語は集結したように見えた。
「レザレクションズ」の舞台はその60年後。再びネオを演じるキアヌ・リーブスは実年齢(50代後半)の姿で登場する。凄腕CEOスミスが経営するゲームメーカー、デウス・マキナ社に所属する天才プログラマーのアンダーソン。かつて大ヒット作「マトリックス」を生み出したが、後は不振続き。クライアントのワーナーからは続編ゲームの制作を迫られ、スミスからも詰められる日々を過ごしている。
息抜きに訪れたカフェで、アンダーソンはトリニティと瓜二つの女性と出会う。彼女はティファニーと名乗り、子供と夫の普通の家庭を持つ控えめな女性で、2人は会えば挨拶を交わす程度の間柄。仕事が煮詰まると通うカウンセラーからは青い錠剤が処方されている。そんな平穏な日常に漠然とした違和感を持つアンダーソンの前に、腕にウサギのタトゥーを入れたバッグスと名乗る女が現れる。
「1」の冒頭をなぞったファーストシーン、キャストの同窓会感とセルフ・パロディによるコミカルなシーンが展開するとともに、次々に語られる専門用語に戸惑いを覚える滑り出し。だが、オラクル亡き後の新しい概念「モーダル」=サブ画面をなんとなく理解していくと、物語は加速度を増す。ネオとトリニティは死んだはずでは? バッグス、アナリスト、新たなモーフィアスとは誰か? ザイオンに代わるアイオとは何か? といった要素が次々にアップデートされ、新たな救世主の覚醒エピソードへと繋がっていく。
中身だけではなく、マイノリティを積極雇用し、使用済み資材を再利用するなど、SDGsを先取りしていたようなウォシャウスキーのスタイルは、同一俳優が性別、人種、時代の異なる複数のキャラクターを演じた「クラウド・アトラス」や、世界に散らばり互いの人格を自在に共有出来る8人を描いたドラマ「センス8」を経て、今回の「レザレクションズ」で見事に結実している。そこには、すべての境界線を乗り越える人々の自由な精神がテーマになっている。
プライベートはもちろん、興行成績の不振やシリーズの打ち切りなど、さまざまな人生の浮沈を味わってきたと思われる2人のウォシャウスキー、そしてキアヌ・リーブス。その20余年が反映された作品だと思うと、3部作からのファンはより深い味わいが胸に迫る。最新の映像表現、時代を先取りしたストーリーの中に、ぜひ彼らの人生の機微を感じて頂ければ幸いだ。
(本田敬)