劇場公開日 2022年2月23日

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「アランチャ・サンチェスが悪役みたいになっちやった…」ドリームプラン kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アランチャ・サンチェスが悪役みたいになっちやった…

2022年3月23日
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鑑賞方法:映画館

この父親、日本で言えば亀田史郎氏みたいな感じか…。アメリカでは有名人のようだ。
テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成…云々。その過程を描いているのかと思ったら、その後の物語だった…。

ウィリアムズ姉妹がグランドスラム大会のコートに躍り出たのは1997年。それ以前の姉妹のことはほとんど知らなかった。父親のことは試合のテレビ中継で語られることはあったものの、日本では名物オヤジとして取りあげられる程ではなかった気がする。
姉のビーナスはマルチナ・ヒンギスと同い年で、同じ14歳でプロデビューしたらしいので、1997年の全米オープンに初出場する3年前になる。そのプロデビューのトーナメント2回戦でのアランチャ・サンチェス・ビカリオとの対戦が本作のクライマックスになっている。
このサンチェスは13歳でプロデビューし、17歳で全仏オープンでグランドスラム大会を初制覇している。
ヒンギスも絶対女王シュティフィ・グラフも16歳でグランドスラム大会を初制覇しているので、ウィリアムズ姉妹が特別に早かった訳ではない。姉のビーナスがグランドスラム大会に初優勝した時は既に20歳だった。
総じて早熟な女子テニス選手の中にあって、ウィリアムズ姉妹が驚異的なのは現役としての息の永さだ。幼い段階で注目を集めることで潰れてしまわないように、父親がプロテニス界の常識と戦ったことがこの映画に描かれている。
プロ転向後、グランドスラム大会デビューまで時間がかかったのも、WTAのツアーよりも勉学を優先させた父親の方針があったからだという。

主人公リチャード(ウィル・スミス)が娘たちに語る悲惨な少年期の体験。自分の父親は息子を見捨てたが、自分は必ずお前たちを守ると宣言する。強い決意と、それを娘たちに表明する態度は尊敬に値する。
近所の人の通報によって虐待の調査に来た警官に対して、黒人の子供たちがこの世の中で生き抜いていけるように教育していることを訴える場面は胸を打つ。警官たちは絶句して引き下がる。
だが、この意思の強い男は、反面では独善的で意固地な「扱いにくい人」だ。
著名なコーチにも堂々と意見するのだが、彼が独学でテニスを研究する様子があまり描かれていないので、彼が間違っているのか、そのコーチを上回っているのかが分からない。そこは、結果が物語る。
この扱いにくいオヤジを妻のオラシーン(アーンジャニュー・エリス)が涙ながらに諭す場面が秀逸だ。ウィル・スミスと並んでアーンジャニュー・エリスがオスカーにノミネートされたのも納得。
スケールの違いはあれど、夫婦あるあるかもしれない。なにもしない夫(父親)か、何かにつけて強権発動する夫(父親)に二分されがちなのが男という生き物で、リチャードは後者だ。だが、結局子供たちのことを分かっているのは母親の方だったりするのだ。

ウィリアムズ姉妹がテニス界にもたらしたのは、女子離れしたパワーテニスと、セレブスポーツへの黒人の参入だった。
ジュニアトーナメントの会場で父娘に珍しそうな視線が向けられる演出があったが、これが感動的なラストシーンへの布石になっていたと思う。
父娘が練習する公営テニス場にたむろして彼女らにちょっかいを出していたチンピラたちが、ビーナスが白人たち相手に連戦連勝する姿を見てボディーガードに転じるところなど、作劇として粋な展開だ。最も父娘に手を出していたリーダーが態度を変えた方がより面白かったかもしれないが、そいつは彼らが暮らす地域の荒廃度を示す方の役回りになっている。

練習風景や試合をとおしてテニスシーンの演出が巧い。スピード感、迫力があって、姉妹を演じたサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトンの動きを全身で見せていて小細工がない。少女期の役なので体型こそ今の本人たちとは違っているものの、動きの特徴は捉えていたと思う。
チラっと登場する有名選手たちも雰囲気がよく似ていて面白い。アンナ・クルニコワが名前しか出なかったのは残念だったが。

そして、特筆すべきはクライマックスで戦うサンチェスを演じた女優だ。何より彼女の動きが実に本物に似ていた。
カメラが人物に接近して迫力を出す様な過度な演出ではなく、二人の選手をフレームに納めた試合の再現力が素晴らしい。
試合の展開が事実通りなのかは知らないが、トッププレーヤーのサンチェスが駆引きを使うのが面白い。いきないプロの洗礼を浴びせたという展開だ。
そして、試合後の感動のラストシーンへとなだれ込むテンポが心地いい。

この映画は、名物オヤジの奮闘記であると共に、黒人の境遇に真っ向立ち向かった男の物語りとして、アメリカの病巣を見せてもいる。
伝記としての一面は、姉妹をテニス界に送り込んだ実績はそのとおりだが、妻の連れ子や先妻との間の子たちとのイザコザのゴシップを耳にするにつけ、真に受ける訳にはいかないが、映画で描かれている限りにおいても相当面倒臭い人物だということは分かる。
だが、それぐらい厄介な男でなければ、貧しい黒人の子だくさん家族にあって、セレブスポーツのテニス界に爪痕を残すような偉業は達せられなかっただろう。

kazz
近大さんのコメント
2022年7月5日

この処分の結果は納得いきませんね。
ウィルだけ咎められて、クリス・ロックは一切お咎めナシというのは。
何だかまるで、手を出す暴力は許さないけど、言葉の暴力はブラック・ジョークとして許される。
そんな気がしてなりません。

近大
ニコさんのコメント
2022年3月24日

コメントありがとうございます。
サンチェス戦、実際の試合を見てるようなテンションになりました!
癖の強い父親を憎めないキャラに見せたウィル・スミスもよかったです。

ニコ
bloodtrailさんのコメント
2022年3月24日

kazzさんへ
コメント、有難うございました!
「財政視点では貪欲に近く現実的」でありながらも、「家族愛」を忘れてないと生々しさが面白かったです。世間にはアンチも多いんでしょうが、「この生き方のどこが悪い?」って言う物語でした!

bloodtrail
ゆ~きちさんのコメント
2022年3月24日

ダメ夫ではあったけど、アスリートの父としては成功者でしたね。確かにチチローや横峯さくらの父というよりは亀田史郎www

それにしても有色人種差別は、なかなか根深い。大坂なおみの叩かれ方、白人選手にもあるのかなと思いました。

ゆ~きち