劇場公開日 2021年10月15日

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「良質なSFは新たな神話となる」DUNE デューン 砂の惑星 はりぞーさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0良質なSFは新たな神話となる

2021年10月16日
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IMAXにて鑑賞。

 ドゥニ・ビルヌーブ監督作は前作メッセージ及びブレードランナー2049の2作品しか鑑賞していないが、どちらも素晴らしい映像体験で印象深い監督の一人。

 今作DUNEに関しては、スターウォーズを調べていくうちに知ったが、関連作に初めて触れたのは2013年公開のホドロフスキーのDUNEだった。その後リンチ版のDUNE砂の惑星を鑑賞したが、キャラクターのデザインやグロテスクな表現には驚かされる部分はあったものの、作品としては長編の原作を2時間に収めるため後半はほぼダイジェストとなってしまっており、全体としは駄作という印象に終わってしまっていた。

 ホドロフスキーのDUNEでは未完の大作となってしまった経緯や当時のスタッフ、とりわけ後のエイリアンのデザイナーとして活躍するHRギーガーやバンド・デシネ界の巨匠メビウス。また、不運の天才脚本家ダン・オバノンなどのインタビューが収録されており映画資料として非常に価値のある作品になっている。本作の鑑賞前後に合わせて楽しんで欲しい。DUNEの企画が消えてメビウスとホドロフスキーがDUNEのアイデアを違う形で表現したバンド・デシネアンカルはバンド・デシネ史上最高傑作と呼び声高い。

 さて、本作はそんな映像化に恵まれなかった不遇の名作SF「DUNE 砂の惑星」の2021年版の実写映画である。制作はこの夏「ゴジラvsコング」で世界中を熱狂させたレジェンダリーピクチャーズである。2005年に設立されたこの会社は映画業界では珍しくベンチャー気質が強く、自社のフランチャイズには惜しみない金を注ぐことが有名で、今作の制作費にも1.7億ドルもの巨額の投資を行っている。
 その甲斐あって、映像は本当に素晴らしく、ヴィルヌーブ監督作の中でも最も美しいと言っても過言ではない。この監督の特徴は引き絵で広大な自然を撮り、手前に登場人物や重要なオブジェクトを配置することで物語の説明や世界観をワンショットで提示する、今作でもその手法は随所に見られた。特に今作では宇宙船がその役割を担うことが多く、DUNEの世界観を表現する上で欠かせないものとなっている。

 宇宙船のデザインについてもかなりのこだわりを感じ、特に作品内で度々登場する、トンボのような航空機や巨大な筒状の宇宙船(母船)のようなものなどとにかく今までのSF作品とは一線を画すようなデザインが積極的に採用されスターウォーズを始めとする既存のSF作品との差別化が図られている。それだけではなく、撮り方にもこだわりがあり、前述の引き絵での撮影だけでなく、霧深いシチュエーションであえて全体像を見にくくし、宇宙船に付いているライトだけを光らせ、シルエットだけぼんやりとわからせるようにするなど、観ている側の想像力を働かせるような演出も多用されている。

 ストーリーについては、原作に忠実で、原作自体の初版が1965年であるため、流石に古く感じる部分もあるが、主役のティモシー・シャラメ初め役者陣の演技力の高さが物語の品格をしっかり高めている。特に注目したいのはハルコネン男爵で、物語上最重要の人物であるが、リンチ版と比較して非常に上品でクールなキャラクターに仕上がっている。リンチ版のハルコネンは完全にイっちゃってる人でとても80年間に渡りあの惑星アラキスを統治していたとは思えなかったが、今作のハルコネンは落ち着きつつもうちに秘める狂気をうまく表現していた。象徴的なのは終盤に真っ黒な風呂に入っていたシーンでラバンから朗報を受け取ったとき。リンチ版ではおそらく派手に風呂から飛び出し、喜びを表現するところだろうが、今作では水面を泡立たせつつゆっくり顔を出し、冷静に喜びつつも腹の底では安心しきっていないような深みのある表現となっていた。

 総評としては非常に良くできた佳作となっている。早くパート2が見たい!DUNEが真の意味で新たな神話となるところを見届けたいと思う。

はりぞー