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日本の刑事物だと、犯人は悪人か止むに止まれずの犯行かはともかく、主役の刑事は出世より正義を貫き現場を貴び、マスコミは嫌らしく嗅ぎ回る…というのはパターンかなと。
でも、この映画は違いました。
《あらすじ》
心臓病で二度の手術と入退院を経験した老精神科医の趣味は釣り。今日も釣りに行こうとしていたところへ、血痕のついたシャツを着て疲れきった様子の警部が連れてこられます。
「全ては霧のせいなんだ…」
ここからは、警部の回想シーンに入ります。
とある田舎町で、少女が失踪。
爆弾魔を誤認逮捕したという前歴のある主人公の警部は、少女の家の前で手を叩いてみて、近所の家の人たちが何事かと次々顔を出したりするのを確認すると、すぐさま誘拐殺人と断定します。そして、ヤル気のない現場の警官数名と同行した刑事1名では担当が足らないと、雨合羽を着せて警官を山の中を歩かせて、マスコミにこの事件は大事だと匂わせて大騒ぎさせ、結果メンツを気にする警察本部を動かさせ、担当人数を大幅に増員させます。
そのうち、着任して日の浅い教師の男が、アリバイもなく、別の女生徒から誘われたとマスコミを通じ告発されたり、手に目立つ傷があったりと、怪しさ満点でクローズアップされます。
周囲からも白い目で見られ、マスコミにも連日責められる男。妻子はこの町を離れます。
警察は、男の車の中から猫の毛を発見しますが、少女の痕跡は見つかりません。警部は、少女が猫を飼いたがっていた事実を知り、猫の毛こそが証拠だと男に詰め寄りますが、口を割りません。
そこで、詰め寄った際に男の手の傷口からテーブルに付着した血痕を採取し、唯一見つかっている少女の遺留品にそれを付着させて証拠として捏造し、逮捕してしまいます。
前後するように、この事件は赤毛で雀斑の少女ばかりを狙った連続殺人の一環であるとの情報提供が警部にあります。
その事実がマスコミにも曝され、長期間にわたる連続殺人の犯人には年齢的になりえない教師は、釈放されます。喜ぶ妻子と男。弁護士は賠償金を請求しましょうとヤル気満々です。
男は回想します。爆弾魔の誤認逮捕によって莫大な賠償金が支払われたこと、あえて怪しく見せるため劇場型の女生徒を選んで自分から誘うメールを送ったこと、目立つ髭面でいたこと…。全ては賠償金が目当てで一連の行動を取っていたのです。
回想シーンは続きます。
髭面の男が猫を捜してと少女に頼んで、少女が自分に背を向けたところで襲って誘拐したところ。廃ホテルに薬を嗅がせた少女を運び込み、薬殺した後ビニールに包んだところ…。
ところで、警部に届いた資料には、少女のものと思われる裏日記があり、そこには手首に愛しい男のイニシャルをこっそり入れているという記述がありました。警部はマスコミの力を借り、無罪についてのインタビューに応じに来た男の手首に全く同じマークがあることを、しっかり確認することができたのでした。
…と、話をしていた警部は、精神科医の釣りの戦利品である虹鱒の剥製を見ながら、先程とは違って覚醒した冷たい目で聞きます。「同じ魚ばかり釣っているんですね」
髭面の精神科医は素直にそれを認め、警部はそのまま警察に連行されていきます。
精神科医のほうは、のんびりと釣りの道具置き場へ行き、缶ケースに入れられた6束の赤毛の毛髪を撫でながら回想します。釣って浜辺に打ち上げた虹鱒がだんだんと横たわった赤毛の女の子に変わっていく様を。
《あらすじ ここまで(一回観たきりなので、多少違うところがあるかも)》
日本の刑事物なら「俺の勘がそう言っている!」などと主人公が勝手な単独行動を取って、結果的には偶然半分で犯人逮捕に大貢献するという、組織からの逸脱を嫌う日本人的性格からして絶対ありえないパターンが定番な気がしますが(ありえないからこその人気?)、イタリアの警部は、科学捜査に頼りきることもなく、推理も人員手配も自分の頭を使って行っていて、賢い賢い。
ストーリーとしても、「全ての模倣は金のため」と生徒の前で演説し逮捕されていった男は、逮捕当時は無罪の男が最後まで授業したかったんだね可哀想に…という授業風景でしかなかったのに、真実がわかると、そのシーンが俺は金のために極悪な模倣犯になったんだぞという告白でしかなかったという1つめのドンデン返しも良かったですし、連続殺人が暫く収まっていた理由が最初から提示されていた点も、回想シーンが誰の物か不明瞭な点もあえてのことだった点も、最後にわかる2つめのドンデン返しも良かったです。
最初のシーンで、警部の着ていたシャツに血痕があったことと精神科医に連れていかれたことから、もしかしたら少女を殺したのは警部なのでは?と思いながら観ていた点も、見事に裏切られて楽しかったです。
また、爆弾魔事件は犯人逮捕後から1件も起きていないことからも間違った逮捕ではないとずっと思っていて、今回の事件でも証拠不十分で真犯人が司法の手から逃れてしまうくらいなら、自分の手で始末をつけようと思った主人公。
これもまた一つの正義ではあり、最後には本当の犯人にも気付くという頭の良さも相まって、恰好良くすら見えました。
惜しむらくは、後半が駆け足過ぎたこと。
途中から急に現れた連続殺人を示唆する記者の立ち位置がよくわからなかったです。
犯人と繋がっていなければ入手できない証拠品はどういう方法で入手できたのでしょうか?また、殺人現場が廃ホテルである点もどうやって知ったのでしょうか?
また、記者が真犯人を知っていたなら、真犯人を挙げて記者としての名誉挽回を図るほうが普通なのに、あえて警部を選んで陥れたのはなぜなんでしょうか?警察全体を恨んでいたなら、鼻つまみ者状態で実質孤軍奮闘状態の警部を嵌めてもダメージゼロどころかプラスなのですが…。
とまぁ、長々書くだけ、十分面白かった、見応えがあったという映画でした。
推理物が好きな方にオススメです。