パブリック 図書館の奇跡 : 特集
ホームレスが図書館を占拠!? 斬新な物語に心温まり、“今見るべき”テーマに考えさせられる… 面白い“だけじゃない”、奇跡の娯楽作
映画館で映画を見たい、出来れば記憶に残るような作品を引き当てたい――。そんな思いが強くなっているであろう今日この頃。「パブリック 図書館の奇跡」(7月17日公開)は、我々映画ファンのニーズにしっかりと応えてくれる逸品だ。
「ホームレスが図書館に立てこもった」という目を引く設定に、様々な人々の思惑が入り乱れるドラマ性、そしてアッと驚くサプライズ。さらに、“いま”とつながる社会性をはらんだ、我々が生きる日常と地続きのテーマ、鑑賞後に訪れる暖かな余韻と未来への希望……。
古今東西、我々をひきつけてやまない「映画の魅力」が、この1本にギュッと凝縮されている。
【キャッチーな設定】「観客を引き込む」物語が融合 この発想はなかった、ただの良作じゃない! 本作が量産型「いい話」と一線を画す“5つの要素”
「良い映画」であることは間違いない。しかしそれ以上に、「見ことがない」独自性&「これは新しい」希少性が、「パブリック 図書館の奇跡」の大きな魅力。
図書館を舞台にした一種の“ワンシチュエーションもの”でありながら、見る者の想像を超えて、登場人物の“想い”やドラマが無限に広がっていくのだ。ここでは、「こう来たか!」感満載の本作の特徴を、5つのポイントでご紹介しよう。
[設定]ホームレスと職員が結託し、図書館占拠! 鑑賞欲をそそる斬新性
凍死者が出るほどの大寒波が訪れた米オハイオ州シンシナティ。政府が用意した緊急シェルターが満員になり、行き場を失ってしまった約70人のホームレスたちは、救いを求めて図書館に大挙して押し寄せる。しかも、彼らに共感した図書館員も手を差し伸べて……。
という設定が秀逸。荒唐無稽な設定でなく、説得力と独創性が両立しているから、見る者の興味が削がれてしまうことがない。
[物語]ほんの出来心…のはずが、市長に交渉人まで参入!? 予測外の展開
寒さをしのぐための行動が、野心丸出しの市長や凄腕の交渉人を引っ張り出す事態となり、さらに駆けつけたマスコミに婉曲報道され、一大事件に膨れ上がってしまう!
武器もなければ攻撃する意志もないホームレスと図書館職員。「敵」と断定されたこの事態に、どう収拾をつけるのか……? リアルタイムで加速していくストーリーは、観客の心をひきつけて離さない。
[感情]気づけば“犯人”たちを応援している…認めざるを得ない共感性
本作の主人公は、実直で大人しい図書館の職員スチュアート(エミリオ・エステベス)。彼は立場的には占拠された“被害者”側だが、寒波で仲間を失ったホームレス1人ひとりの苦悩を知り、人道的な立場から立てこもりに加担する!
細やかな心情描写は、スチュアートの行動を無理なく観客に伝えてくれる。物語を追っていると、いつの間にか彼らを応援している自分に気がつくはずだ。
[描写]「実寸大の地球儀ある?」「裸でカラオケ!」お騒がせ利用者に爆笑
シリアスなテーマに依存しない、適度にちりばめられたギャグ描写も上手い。スチュアートが勤務する図書館の受付には「実寸大の地球儀」や「初代米国大統領のカラー写真」を求める利用者らが、次々と訪問してくる。
一体、どこからツッコんだらいいのかわからない。さらには、裸でリサイタルを繰り広げる者も登場! 図書館員はつらいよ……。
[俳優]「M:I」の重鎮に、「007」のあの人も! 粒ぞろいのキャストたち
数々のヒット作を支える演技派スターが参加しているのも見逃せない。「ミッション:インポッシブル」シリーズでも活躍するアレック・ボールドウィンや、ダニエル・クレイグ版「007」に出演したジェフリー・ライト、「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレイター。
さらに「ネオン・デーモン」のジェナ・マローン、Netflix「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」で鮮烈なインパクトを残したテイラー・シリングも。多士済々が、多彩な演技で物語に奥行きを与えている。
【時代をとらえたメッセージ性】いい話で終わらない“深み” “あの名優”が11年かけて作り上げた、「今、公開する」意義に満ちた逸品
「見事な設定」「魅せる物語」など“娯楽要素”は多々あれど、本作にはそれだけにとどまらない品格が備わっている。現代社会との密接なリンクがあるからこそ、「面白い“だけ”」で終わらない。
エンタテインメント性の奥に見え隠れするのは、変動し続ける社会に対する鋭いまなざしだ。映画界のホットなテーマでもある「貧困や格差問題」や、世界に波及した「ブラック・ライブズ・マター」、メディアの在り方を問う「フェイクニュース」など……。
製作、監督、脚本、主演を務めた映画界の重鎮エミリオ・エステベスが受け継いできた「映画の醍醐味」と「生きたメッセージ」に満ち溢れた本作は、あなたの胸に深い感慨を残していくだろう。
●今、見てほしいテーマ! 「声を上げることの大切さ」と向き合った“同時代性”
「パラサイト 半地下の家族」や「万引き家族」など、貧困や格差を描いた作品が注目を浴びている昨今。「映画が伝えるべき“いま”」を、本作もしっかりと描き出している。あくまでヒューマンドラマの文脈は崩さずに、人種や肌の色、あるいは貧富で人を区別する社会の構造を、しっかりと表現しきっているのだ。
「図書館」という誰もが利用できる公共の場所で、ホームレスや職員が「排斥」されそうになる、という批評的な構造も的確。バリアフリーを追求する環境においても、ある種の差別は存在するのだと、改めて見る者に考えさせる。
同時に、システマイズされすぎた現代への警鐘も。未曽有の大寒波という状況でも、「図書館は開放できない」と特例を認めない行政。人命よりもお仕着せの秩序を守ろうとするシチュエーションは、コロナ禍のいま、日本にいる私たちも頻繁に目にしていることではないだろうか。
加えて、民衆の支持を得たい市長や、“数字”が欲しいマスコミが事実を歪曲し、自らの野心のためにスチュアートやホームレスを利用しようとするシニカルな要素も内包。「デマ」や「誹謗中傷」、「フェイクニュース」があふれる今を、強烈に風刺している。このように、「いま、見ることでビビッドに突き刺さる要素」が多数ちりばめられているのだ。
しかしながら、本作の“出口”は温かさや光にあふれている、という点もお伝えしたい。爽やかな感動が、しっかりと心を温めてくれる作品に仕上がっている。
攻撃性や暴力性で事態を解決しようとするのではなく、社会的弱者だからといって押し黙ることもせず、“平和的な対抗”でもって己の主張を訴えようとするスチュアートたち。彼らが選び取った、驚きに満ちたアプローチとは?
「パブリック 図書館の奇跡」が提示した“解決策”を、劇場で受け取っていただきたい。きっと、困難な時代を生き抜く、あかるい活力をもらえるはずだ。
●監督・主演は俳優一家出身のE・エステベス! 実際の記事から着想し、構想に11年かけた入魂作
最後に、本作を手掛けたエミリオ・エステベスについてもご紹介。「レディ・プレイヤー1」や「スパイダーマン ホームカミング」などでもオマージュされている青春映画の金字塔「ブレックファスト・クラブ」でブレイクした彼は、父はマーティン・シーン、弟はチャーリー・シーンと“俳優一家”の生まれ。
映画監督としても活動しているが、本作は構想に11年もの年月を費やしており、彼のライフワークといえるだろう。この物語は、ロサンゼルス・タイムズに掲載されていた“ある公共図書館の元副理事によるエッセイ”から着想を得ている。
入念なリサーチを重ね、観客に図書館の実態を伝えるとともに「分断の世の中で、弱者を救済する道徳心はあるのか?」という問いを投げかける。そんなエステベスの映画監督としての手腕にも、期待していただきたい。