「何の解決にもなっていない...」パブリック 図書館の奇跡 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
何の解決にもなっていない...
『飛べないアヒル』のテレビシリーズに参加することも決定している俳優エミリオ・エステベスが主演・脚本・監督・製作を務めた社会派作品。
統計上の雇用率は増えていて、仕事はあるが、家賃や物価が上昇しているため、従来の路上生活をしているホームレスとは別に、新たなホームレスも誕生している。日本で言えば車上生活やネットカフェ難民みたいなものだ。
しかし、世界的にはネットカフェというのは、ただネット環境があるカフェのことを指していたり、あっても本当に限定的で日本のように宿代わりに使えるようなものではない。
イギリスが舞台の『ラスト・クリスマス』でも、職場はあるが家がないため、友人の家を渡り歩く姿が描かれていたり、働くことへの価値観も変わってきていたりする。そういった、新たな形態のホームレスも増えていて、シェルターなどの施設は満員で抽選だったりもする。アメリカのみならず世界中で問題になっているのだ。
公共施設というのは、日中を過ごす場所としてホームレスの溜まり場となっている現状があり、映画でも図書館がオープンする前から列ができていて、閉館になれば施設を探すというサイクルが出来上がってしまっている。
2019年には、ニューヨークが過去最低気温を記録しているほどアメリカの冬は寒く、どこの施設にも行けなかったホームレスが寒さによって路上で死ぬという、フィクションではない社会問題を扱っているのだ。
そこでホームレスたちは、外に出たくないと図書館を占拠することになり、最終的に美談のような着地点になっているのだが、問題提示されるべき部分があやふやにされている感じがしてならない。
人道的や感情的に考えれば、図書館に泊めてあげていいと思うだろうが、それが毎日続けばどうだろうか。
普通に本や資料を探しにきた人にとっては、問題行動を起こしたり、たむろしている図書館に入りにくく、治安の悪い場所になってしまっている問題は描かれておらず、視点が偏っていることも気になるが、市が緊急的に大寒波によるホームレス支援対策をしかりとしない限りは、何の解決にもならない。
それどころか、1日だけと前例を作ってしまったことによって、今後も図書館や公共施設がホームレスに占拠される事件が多発する可能性も出てきてしまうし、そうなると別の社会問題や治安に関わってくる。
劇中でも、そういった部分に触れてはいるものの、なんとなくスルーされてしまっていて、ホームレスになった事情や雇用や生活といった別の社会問題に観ている側の意識を逃がしていて、結局何の解決にもなっていない気がする。
エンターテイメント性が薄く、物事のメリハリがあまりないため、淡々とストーリーが展開されてくことで、逆にあやふやにされている部分が目立ってしまう映画構成上の問題点も抱えていて、社会派作にも娯楽作にもなりきれていない中途半端な出来だ。
ホームレス占拠の様子をテレビの中継などで観た人たちを動かせるとう、#MeToo運動に発展したことにより、何かが変わるのだとしたら、映画としてそこまで描くべきではないだろうか。
個人的に気になったのは、クリスチャン・スレイター演じるデイヴィスがあまりにもバカということ。
デイヴィスは市長選に向けて市民への印象を良くしたいのであれば、今回の騒動を利用して、ホームレス支援の方向性を示せばかなりの支持を得られたと思うのに、印象が悪くなる真逆の行為に出るところからすると…市長には、もともとむいていないのだろう。