劇場公開日 2021年1月22日

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「何も知らずに見に行ったが、思った以上に印象的で素晴らしい作品だった」さんかく窓の外側は夜 逢生さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0何も知らずに見に行ったが、思った以上に印象的で素晴らしい作品だった

2021年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私は『さんかく窓の外側は夜』の原作を読んでいたわけでもなく、また特段映画をよく観るというわけでもなく、ただ平手友梨奈さんが出るならせっかくだから見てみようかな……最近外に出る機会もないし……と比較的軽い気持ちで見に行ったのですが、思った以上に面白くて印象に残る映画でした。

まず先に、残念だったところから書くと
・綺麗で感動的な雰囲気の音楽が、ストーリー内容にあまり合っていなかったかも
・霊が見える、呪いをかけられるなどの特殊能力や特殊設定についての説明が少なくて、原作を知らない者からすると話に入りにくかった
・セリフの中に「えっ……」が妙に多かった気がする
・三角くんがなぜそういう行動をするのかという心情がやや追いにくい?

一方で素晴らしいと思った点は
・三角康介/志尊淳→志尊さんの演技によって、孤独と劣等感の中で生きてきた卑屈な三角の、孤独ゆえの弱さ・劣等感ゆえの無謀さ・卑屈ゆえの優しさが表現されていて、見入ってしまった。三角はどちらかといえば正義感の強い心優しい人ではあるんだろうけど、ストーリーの後半では彼の「正しくなれない」(初めて見えた光明を守るために悪も許して受け入れてしまうような)面も描かれているのがリアルで切ないなと思った。また、彼の顔や表情、ソフトな雰囲気がすごく頼りない感じで可愛かった。
・冷川理人/岡田将生→出てきた瞬間からカッコよかったし、画面に映っている間中カッコよくて、めちゃめちゃ目で追ってしまった。顔も髪型もスタイルも本当にカッコよかった……。単に見た目が綺麗というだけではない、存在するだけで発せられる強烈なカッコいいオーラを感じる。性格的にひねくれてるのも素敵。冷川自身明るくない過去を持ちながらも振る舞いはかなり無感情で冷淡なのと、その無感情で冷淡なゆえに不器用にしか振る舞えない何とも言えないもどかしい感じが、複雑で面白かった。
・非浦英莉可/平手友梨奈→もともと私は平手さんのことが(そこまで大ファンというわけではないけれど)好きで気になっていて、この映画も彼女の演技を見たくて見に行ったのだが、実際に見てみたら想像していた以上に魅了された。特にすごいと思ったのが、非浦英莉可の中に、普通の女子高生の表情と人間とは思えないような恐ろしい表情が違和感なく両立していることだ。決して「スイッチを切り替えるように普通の子から恐ろしい怪物に変わる」のではなくて、ふと気づいたら変わっていてふと気づいたらまた戻っている、いつ変わったのかをはっきり見分けることもできない。というよりそもそも本当に「変わって」「戻って」いるかどうかも疑わしくて、多分この2つの人格は非浦英莉可の中でそこまで分離していなくて、ごく普通の女子高生らしさも人間離れした恐ろしさもどちらもありのままの素顔、彼女はそんな自分の素顔をただ純粋に表現しているだけ。という、そういう表現がすごく自然だなあと思った。またそれ以外にも、大げさすぎない説得力のある感情表現や、目の表情の演技が良いなと思った。
(「2つの表情」については平手友梨奈さん自身もそうかもしれなくて、平手友梨奈さんにもごく普通の表情と怖いくらいに人間離れした凄まじい表情と両方があると思うのだが、これもどちらが作り物というわけでもどちらがより上というわけでもない、両方本当の平手さん、両方彼女の飾らぬ姿ってことなのかもと思う。平手さんの演技をもっと見たくなったので、またレンタルで『響』も借りて見てみたい)
・半澤日路輝/滝藤賢一……冷川とはまた違うダンディなカッコよさがあった。若くて不器用でまだ未熟な3人(三角・冷川・非浦)が戦う中で、半澤の大人さ、揺るぎない強さがすごく頼もしく見えた。
・そのほか……この物語の一つのテーマは「特殊能力」なのだろうけど、社会の中で普通に生かす道のない特殊能力はそれを持つ人間に「居場所のなさ」ばかりをもたらすのだなと思う。勉強の才能もピアノの才能も霊視の才能も呪いの才能も全部才能には変わりないけど、前2つはたいてい褒められるし仮に褒められなくても社会の中で存分に生かす道があるのに対して、後ろの2つは基本誰にも理解されないし社会の中でそれを普通に生かせる道もない。呪いの才能に至っては、悪い方向に使う方が簡単だから、早いうちから利己的な大人に捕まって利用されてしまう可能性も高い。そのような、言ってしまえば「誰も幸せにしない」特殊能力を持って生まれてしまったら、自分という存在について考えすぎるほど考え、そして疑うようになるだろう、と思う。私は霊視の才能も呪いの才能もないけれど、それに似た感覚ならば私の中にもあるので、この物語にも共感を感じた。そしてだからこそ、この映画の中で描かれている、「誰も幸せにしない」と思っていた自分の能力で誰かを幸せにできるかもしれないという光が見えたその世界が変わるような感覚に、とても心を動かされた。その感動が、この映画に星5つ評価をつけて普段書かないレビューを書こうと思った一番の理由かもしれない。しかし当然それだけではなくて、上記したような俳優さんの素晴らしさはもちろんのこと、映像の美しさ、演出、物理的にも精神的にもグロテスクな(だけど引き込まれる)展開、細かい伏線の回収、などいろいろな面で良い映画だったと思う。

普段映画館で映画を見ない、そもそも映画館の音響そのものが苦手な自分ですが、続編があったらぜひ見に行きたいです。

逢生