劇場公開日 2020年11月20日

  • 予告編を見る

「泣く子は自分自身」泣く子はいねぇが おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5泣く子は自分自身

2020年11月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

レビューでそこそこ評判がよく、最近なにかと目にする機会の増えた仲野太賀くんの演技に興味があって鑑賞してきました。期待どおりの秀逸な演技のおかげで、寒々しい風景の中にいつのまにか引き込まれ、静かに流れる時間に浸り、行間を読むように味わうことのできる作品でした。

ストーリーは、秋田のなまはげで失態を晒した男が、一度は故郷を離れ、それでも捨てきれずに戻り、失った家庭を取り戻そうとするものです。自分の居場所を求めてもがく男の姿が、秋田県男鹿の風景と相まって切なく描かれます。

まずは、テレビでしかみたことのないなまはげについて、準備の様子やそこに込められた思いを知ることができたのはよかったです。そして、これが後の展開と終盤への伏線になっているのもよかったです。自分の地元に伝わる、神社への奉納手筒花火や喧嘩神輿を思い出して、ノスタルジックな気分になりました。それだけに、その文化に泥を塗るような行為を許せない人々の思いには、大いに共感するものがあります。

一方、太賀くん扮するたすく側の視点からみれば、酒によるたった一度の失敗。それで家族を失い、地元にも居られず、生きる気力までなくしかけた姿は同情を誘います。いささか酷なようにも映りますが、これが現実社会。おそらくここに至るまでにも、語られぬ不甲斐ない姿があったのでしょう。未熟で、精神的な自立のないまま父親になった男が、初めて真摯に自分と向き合い始めます。自分の不始末の重大さを自覚し、それでも失った家族を取り戻したいともがく姿に胸を打たれます。

終盤、なまはげで失った家族に、なまはげの姿を借りて会いに行く場面が、本当に痛々しくて切なかったです。もう取り戻すことはできないとわかっていても、妻と娘のもとに向かわずにはいられず、玄関先で大声で吠える姿に、胸が苦しくなりました。成長した娘に会い、伝統に則って最後に一度でも父親らしい姿を見せたかったのではないでしょうか。それが今の自分にできる、父としての唯一の行いであり、同時に、ふらふら生きてきた自分との訣別の証ではなかったのかと思います。Wikipediaによると「『なまはげ』は怠惰や不和などの悪事を諌め、災いを祓いにやってくる来訪神」だそうです。最後にたすくが「泣く子いねぇが」と言って探し当てた「泣く子」は、自分自身だったのかもしれません。

おじゃる