劇場公開日 2020年10月9日

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「現実世界に生きる約38億人の”キム・ジヨン”に希望はあるか」82年生まれ、キム・ジヨン くちなし(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0現実世界に生きる約38億人の”キム・ジヨン”に希望はあるか

2022年1月7日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

単純

この物語には、苦悩、葛藤、そして”希望”がありました。俳優陣の演技も素晴らしく、映画として非常に綺麗でした。

しかし、原作小説を読んで映像化を楽しみにしていた人は、残念に思うかもしれません。

今作で主人公やほかの登場人物らにファンタジックな希望が与えられたことで、現実世界に生きる約38億人の”キム・ジヨン”が求める希望は否定されたように感じます。主人公は専業主婦ですが、この物語が描く女性の生きづらさという主題には、既婚か未婚か、子がいるかいないかということは、本質的には関係ありません。

男女問わず、原作小説に共感し、気付きを得て、いままで見て見ぬふりをしてきた部分と向き合った人たちが探している希望は、この映画で描かれた希望とは別種のものです。

原作と映画で物語がまったく同じということはほとんどありませんが、それでも、今作はフェミニズム作品である原作小説が訴えた主題を、「こうであって欲しい」という希望を描くことでかき消してしまいました。

今作を見て「身につまされる」と思った方は、原作小説を読んだら夜も眠れないと思います。眠らないで欲しいです。一晩くらい眠らずに、身近にいる”キム・ジヨン”たちが生きるもがくしかない現実を見つめ、自分と向き合い、立ち上がって欲しい。

大抵の場合、映画と原作は別ものです。今作の場合も、まったく別のものとして捉えると、両方から得るものがありそうです。

くちなし(映画.com編集部)