「知ることからはじめたい」パピチャ 未来へのランウェイ natsukiさんの映画レビュー(感想・評価)
知ることからはじめたい
90年代のアルジェリアを舞台に、女子大に通う女性たちが、命懸けでファッションショーを開くまでの物語。
冒頭にクレジットが入るように、実話をもとに作られた作品のようです。
真夜中に寮を抜け出しクラブに向かうところからはじまり、
タクシーの中でワンピースに着替え、化粧をして、ノリノリの音楽をかけて、煙草を吸う主人公と友人。
その楽しそうな様子にこっちまで笑顔になりますが、
タクシーが検問所を通るときに、一気に雰囲気が変わります。
銃を持った覆面の男たちが車を止め、運転手やトランクを徹底的に調べ、少女達にも「どこへ行く、女は家にいろ」と威圧する。
その時、青春を謳歌する少女たちの物語であると同時に、90年代アルジェリアの実情、空気、息苦しさが伝わってきました。
主人公のネジュマは服を作ることが好きで、将来はファッションデザイナーになることを夢見る、芯の強い女性。
作中、お洒落を楽しみ、友人との時間を楽しみ、恋をして、夢を見て、ファッションショー開催を目指してドレスを作る描写と、
「女は家で家事をしていろ」「ヒジャブを身につけなければならない」「肌を露出するな、正しい格好をしろ」「外国語を勉強するな」「煙草を吸うな」「外国の歌を歌うな」などを強制させられ、従わない者はただそれだけで殺されるという、息苦しい以上の、神の代弁だと力を振りかざされる残酷な様子が描かれる。
どんな場面でも恐怖が付き纏う。命が簡単に奪われる。それが恐ろしかった。
そんな状況でも、主人公は負けず、恐れずに立ち向かっていきます。
この作品はすごくアップや寄りのカットが多く、多過ぎるくらいで途中からちょっと疲れてしまうのですが…
でも、その撮り方だからこそ彼女たちの情熱や強さが、表情から指先から視線から伝わってくるような気もしました。
様々なことがありながらも寮内で開かれたファッションショーは、本当に美しくて、素晴らしくて、キャストの表情も胸にくるものがあって、涙が出ました。
好きな服を着る、ただそれだけで命を奪われるなんてことがあってはならない、許されてはならない、その歴史があったことを忘れてはならない。
不公平で残酷な現実と立ち向かい、夢を叶えた女性たちの姿は、本当に本当に素敵でした。
だからこそ、その後の展開は、何となく悪い予感がしていたものの、涙が止まらなかった。
一方的な悲しみ。
何でこんなことが起こるんだ、許されるんだ、何の権限があって彼女たちの人生を、夢を奪うのか。
辛くて辛くて仕方がなかった。
恥ずかしながら私は、アルジェリア内戦の歴史や、女性が受けていた差別や、宗教についてを全く知らなかったです。
20年ほど前にこんなことが起きていたのかと、衝撃を受けたし、怒りが湧いた。
昨今、フェミニズムがブームとなり、定着しつつあります。一部の人はフェミニストを馬鹿にしたり、やり過ぎだと毛嫌いしたりしますが、そんなの知るか!と思いました。
確かに、男性を落として女性を上げる的な、間違った論を叫んでしまう人もいますが、元々は女性の立場や権利を男性と同等にするべきというもの。
この映画で見たような、女性というだけで様々なルールを課せられ命を奪われた歴史があるということ、それは今後絶対に無くさなければならないこと、そういう一つの背景もあっての今のフェミニズムという形があると思うので、
やはりこれはしっかりと全女性、全男性が改めて考えるべきだと思った。
映画としての出来栄えとかストーリーだとか云々は一旦置いて、こんなにも心動かされ、映画を観て自分の思いが溢れたのは久々でした。
それだけで私にとっては素晴らしい映画だと思っています。
タイトルにも書きましたが、まずは歴史や出来事を知ることからはじめたいです。
どんなことも、人が知ることから議論され、問題視され、変わっていくはず。
変わるためには、変えるためには、知らなければならないと思った。