劇場公開日 2020年10月30日

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「アルジェリアに生きる女性の物語は母と姉から受け継がれ、そして友の娘へと引き継がれていく」パピチャ 未来へのランウェイ h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アルジェリアに生きる女性の物語は母と姉から受け継がれ、そして友の娘へと引き継がれていく

2020年10月31日
iPhoneアプリから投稿

女性の生きづらさや閉塞感という点では、日本や韓国と驚くほど似ている(ちなみに2019年のジェンダーギャップ指数は韓国が108位、日本121位、アルジェリア132位)。韓国でのジェンダーギャップを描き、日本でも話題になった、「 82年生まれ、キム・ジヨン」での女性の息苦しい社会を想起させる(日本はジェンダーギャップの社会課題にきちんと向き合った映画すら制作されていない)。

しかし、日韓との決定的な違いは、アルジェリアでは女性が声をあげることは生命の危険に直結することだ。
アルジェリアの90年代は「暗黒の10年(La décennie noire)」と呼ばれ、独裁政権と反政府組織(イスラム原理主義者)が衝突し、一般市民含めた10万人以上の犠牲者を出している。この作品でも原理主義者や彼らを支持する市民が登場し、ヒジャブの着用を強制する同調圧力が伝わってくる。所々で描かれるテロの現場は凄惨かつとても痛々しい。

「大変だよね。でも、あれはイスラム教の国だから私たちには関係ないし…」と他所ごとですまされる話だろうか。ヒジャブ着用が議論になっているので宗教的な背景に目がいきがちだが、問題の背景は男尊女卑の世間の根深い意識の問題だ。そういう意味では日韓も根っこは同じ。また、日本においても社会の分断が深刻化し、ヘイトや不寛容からの暴力性は深刻化する一方だ。

Mounia Meddour監督がこの作品で提示される社会課題はどこの国でも起こりうるものとして描きつつ、決して希望は捨ててはいけないと最後のシーンはポジティブに表現している点に共感を覚える。

アルジェリア独立戦争を経験してきた母親の姿は強く美しい。姉は最後までジャーナリズムの正義の精神に生き、Nedjmaはファッションで女性の生きる自由を表現しようとする。自由を求めて海外に行くのではなく、あくまで国内にとどまって闘って生きていく姿勢を捨てず、友人の生まれてくる「娘」にもその想いを伝えていこうとする。

彼女たちの希望を捨てずに生きる姿勢から私たちが学ぶべきことはたくさんあるはず。
自分の娘にもぜひ観てほしいと思う。

atsushi