「まさに究極の映画体験」TENET テネット サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに究極の映画体験
「時間が逆行する」という情報のみで劇場に放り出された我々を待っていたのは、今までにない驚異的な映画体験だった。IMAXは音質、映像を以て没入感を引き出して映画と観客を一体化させる。しかしこの映画は純粋に…脚本、演出、演技、そして登場人物が作中で積む経験が(つまり映画そのものが!)観客を映画に引きずり込む。
鑑賞中も鑑賞後も、ただひたすらすごいすごいヤバイと呟き続けていた。思わず言語化に詰まるほどの映画体験だった。
始めの1時間ほどは設定の開示に費やされる。時間の逆行の紹介、主人公が追っているものの正体、TENETと呼ばれるものの存在。
そしてひとたび「逆行」が始まってからは、今まで観てきた映像の答え合わせが始まる。観客が主人公と共に経験した「あれはどういうことだったの?」を次々に回収してくれる。そういうことだったのか、やっと逆行を理解した!と思うのもつかの間。主人公たちが逆行から戻って、今度は特別任務のために再び逆行を使いだしてからは、脳みそが悲鳴を上げるだろう。
鑑賞した内容をそのまま反転させて観客に見せる。それゆえに前半は理解しやすかった。しかし特別任務は、鑑賞の時系列的にいえば逆行と順行が同時に展開される。逆行は任務終了時点から、順行は任務開始時点からそれぞれ展開が始まり、任務時間のちょうど半分でそれぞれが交差する。
それだけだったらまだよかった。ひどいことに順行と逆行に慣れ始めた辺りで一人だけ時間を反転させるのだからもうパニック。一体何が何だかわからない…
特別任務は世界の破壊を防ぐことが目的だった。であれば、任務への逆行が可能な時点で世界は滅びていないことはわかっていたはず。であるのに任務へ逆行を導入したのは「任務に成功した過去を作るために未来から逆行する」いうことを意味し、序盤で主人公が言った「因果が逆転している」ことそのものであり、さすがノーランはSF的な物理への造詣が深いと感心した。
あと、エリザベス・デビッキがとても美しかったです。