「時間遡行よりわかりにくい登場人物の心理」TENET テネット hzwrさんの映画レビュー(感想・評価)
時間遡行よりわかりにくい登場人物の心理
時間モノということで時系列が入り組んでいているのだが、それ以上に絵的なわかりにくさと登場人物の心理的なわかりにくさが物語をわかりにくくしており、そこは何とかならなかったのかと思った。
特に絵的なわかりにくさを感じたのが終盤のアルゴリズム奪取作戦で、セイターの部下が地下で何をしてるのかがよくわからないし、地上の戦闘も時間遡行表現にばかり目が行ってどう戦いが進んでるのかがわからなかった。
なぜ単なる鉄柵を突破できないのかも疑問だった。(見落としただけで装備を失う的な描写があったのだろうか)
セイターの精神状態が物語上重要な意味を持つにもかかわらず、意味深なことを言わせるだけでその人格について深められてないのは欠点だと思う。キャットは彼女自身の考えはわかるのだが、境遇に同情できず、なぜ主人公が彼女に執着しているのかがわからない。
特に空港の作戦の後の船上の場面では、登場人物それぞれがそれぞれをどう考えているのかがつかめず困惑した。そのわからなさを抱えたまま、ただでさえ複雑なカーチェイスシーンになるのでさらにわかりにくくなっている。
そもそもこれだけ壮大な物語においてセイターとキャットの愛憎劇自体が場違いに感じる。
時間SFとしての構造がわかってからは比較的わかりやすかった。
ラスト含め時間遡行というアイデアはうまく活用されていた。
ただ時間遡行状態で燃えると低体温になるというのは他の描写と矛盾しているし(その理屈ならただ外にいるだけで熱中症になるのでは……)、序盤での研究室みたいなところでの説明がその後の時間遡行のあり方と噛み合ってなかったり、SF的な描写が深く考えられているとは言い難い。
また、祖父殺しのパラドクスとして作中でも触れられてはいたが、主人公たちが過去に戻って阻止しなかったとしたらアルゴリズムは「いつ」発動していたのか、といった時間モノにありがちなもやもやはやはり残る。
アクションシーンは派手で見ごたえがあるし、体に響くBGMもよかった。
そういう意味では映画館で観てよかった。
傑作になりえた作品だと思うし、なんか惜しい感じ。