「無理に難解にしているのは観客である」TENET テネット バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
無理に難解にしているのは観客である
今作は、実にシンプルな内容の作品である。難解・難解と言っているのは、正直言って考えすぎだからである。ノーランだからストレートなアクションでなく、難解なのだと勝手にノーランを難解ブランドに脳内処理しているにすぎない。
ノーランは今までの作品の中で「時間遊び」をしてきたわけだが、今作は直接的に描いている。難しい知識など必要なく、全体的にふわっとした設定で、科学的根拠など一切ない上に、劇中でも「考えるよりも感じろ」と観客を誘導してみせる。説明がつかない矛盾点を意図的にごまかしていて、それを勝手に観客が、様々な考察をして難解に導いてしまっているだけなのだ。エサを与えておけば観客か勝手に解釈してくれるということを巧みに利用して構築されていて、難解と誤解している人は、まんまとノーランの罠にかかっているのだ。
そもそも答えが用意されていないものに対して、全て理解したという人がいるとすれば、間違いなく、知ったかぶりだ。
ノーラン自身が大好きな「007」シリーズへのオマージュも今回は色濃く出ていて、「007」特有のおバカさがチラつく。
長身でモデル体型のボンドガール的な美女と恋をして、世界が滅亡する規模のキーアイテムを敵に渡してしまうという一連の流れもしっかりとしていて、しっかりとバカやってくれているところが良い。
ノーランはCGをあまり使わないことで有名で、今回もそうなのだが、今回にいたっては、もっとCGを使った方が良かった。というのも今作で描かれるミッションの先にあるのは、人類滅亡、第3次世界大戦というスケールの大きいものだが、そのイメージやヴィジョンというのが提示されないことで、ミッションが失敗してしまった先に待ち受けている未来というのがふわっとしてしまっていることで、ちょっとした行為で世界が終わるかもしれないという緊張感が全く伝わってこない。というか、登場人物自体も緊張感をあまり感じてないような気がしてならない。
普通のスパイ活動のようにみえて、実は世界滅亡がチラつくというのは、ドラマの『エイリアス』に似た部分もあるし、ドラマであれば予算の都合などもあって仕方ないとは思うのだが、映画だったら、そこは見せてもらいたいものだ。
時間が逆行するというエフェクトも、もう少し派手にしてくれてもよかったと思うだけに、今回はCGもっと使った方がよかった。