劇場公開日 2020年9月18日

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「ブレイン・ストーミングの快感」TENET テネット アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ブレイン・ストーミングの快感

2020年9月18日
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鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

字幕版を鑑賞。「インセプション」や「インターステラー」など、頭をフルに使わないと付いて行けない作風が売りのクリストファー.・ノーラン監督が、製作費に 211 億円をかけたという意欲的な作品である。時間を前後に自由に動かせるという特殊能力が物語のキーアイテムになっている。「インセプション」よりは分かりやすかったように思うが、1回見ただけで全てを理解できる人がどれほどいるのかは、かなり疑問だと思った。

TENET という英単語は、「教義」や「信条」といった意味を持つが、むしろ重要なのは前から読んでも後ろから逆に読んでも同じになるという特徴であると思われる。この作品には、こうした逆読みの名前が散りばめられていて、最初に事件が起きる OPERA 劇場を逆にしたのが、贋作画家 AREPO であり、ROTAS という企業の経営者が SATOR といった具合である。なお、これらの単語を以下のように並べると、縦横の真ん中に TENET が出現する。

SATOR
AREPO
TENET
OPERA
ROTAS

タイムマシンというと荒唐無稽というイメージを持ちやすいが、全宇宙は未来に向かって一方的に進んでいるタイムマシンに乗っていると考えられる。時間経過というものを端的に物理学的に表す言葉として「エントロピー」という言葉がある。主に熱力学で使われるもので、「混沌」や「無秩序性」を意味している。時間経過と共にエントロピーは増大するという法則があり、角砂糖が水に溶けて形が崩れるような様子は、エントロピーが増大した典型的な姿である。

時間が逆転するということは、増大したエントロピーが減少することになり、溶けて崩れた角砂糖が元の立方体に戻ることになる訳であるが、映画中の台詞では、これをあっさりと「エントロピーが減少する」とだけ述べているのに驚いた。説明する気など全くないという態度を見せたことになるのである。つまり、「ついて来れるかどうかはあなた次第」と宣言したも同然である。初めからこの調子なので、以後も説明的な部分はほとんどない。見ている間中ブレイン・ストーミングを経験させられ、その潔さが非常に気持ち良かった。

ただし、厳密に考えてみると、物理的にあり得ない描写が多々目につく。時間が順行の者と逆行の者が殴り合うなどということはあり得ないし、AチームとBチームで時間軸上で挟み撃ちにするという作戦では、互いに相手チームを目にすることはできないはずである。順行する自分と逆行する自分が出会うと中和して消滅すると言いながら、それを歯牙にも掛けない展開があったのも気になった。また、兵器としてわざわざプルトニウムなど使う必要はなく、反物質で作った水でも空気でも大量に作って通常の物質と混ぜればいいだけのはずである。

役者は大変な熱演であった。時間が順行する者と逆行する者が同じシーンに写っている場合、逆行する側は歩き方からして逆にしなくてはならない訳で、役者の苦労は相当なものだったはずである。音楽は雰囲気を良く引き立てており、不思議な感覚を持たせるのに効果があった。小さな道具を印象的に使って切なさを感じさせるなど、演出は良く練られていたが、約束通りの行動をしない者が出て来たときに、何か重大なペナルティがあった方が良かったのではないかと思った。
(映像5+脚本4+役者5+音楽4+演出5)×4= 92 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2020年9月20日

畏れ入ります。

アラ古希
nikuumaiさんのコメント
2020年9月18日

うーんコメントが難しい。映画はもっと難しいのだろうか?

おれには無理かも。

nikuumai