「どうやって撮影したのか、想像しただけでも気が遠くなる作品。」TENET テネット yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
どうやって撮影したのか、想像しただけでも気が遠くなる作品。
本作は、『メメント』(2000)で時間を断片化し(既に時間の逆行も演出に取り入れている)、『インセプション』(2010)で時間の主観性と重層性を描き、『インターステラー』(2014)で時空の超越にまで至ったノーラン監督の試みの、一つの到達点となっています。
ノーラン監督は「本を逆から読み進めて、結末に至る過程を知る」という独自の読書スタイルということですが、これが本作の構造に影響を与えていることはまず間違いないでしょう。
150分の上映時間だけど、中だるみは全くありません。なにしろ「時間」そのものがあれしてこうなるんで。この頭が混乱すること必至の状況を、ある場面ではCGも使わずに一つの画面に収めていることが信じられないほど驚き。予告編にも使われていた航空機が建物に突っ込む場面も、恐らく規模からみて一回こっきりの撮影なんだけど、この場面に何重もの意味を持たせるために、どれだけの綿密な計画のもとに何台のカメラで撮影したのか、想像しただけでも気が遠くなります。
間違いなく一回では理解できないほど複雑な内容だけど、救いは基本的にジョン・デイビッド・ワシントン扮する主人公の視点で物語が展開していくこと。これで複数人の視点を切り替える構成だったら、もはや全く理解不可能な作品になっていたことでしょう…。絶対それも想定して脚本を作っていたと思うんだけど、さすがに自制したのかな?だとしたらノーラン監督の自制心に感謝。
とりあえず藤子不二雄先生のSF漫画と、『映画秘宝 10月号』、『同 11月号』は読んでおいた方がいいかも!パンフレットには本作の構成や時間の論理について詳しい解説があるんで、強く購入推奨だけど、かえって解釈の迷宮に入り込む可能性も…。