「雪」るろうに剣心 最終章 The Beginning U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
雪
とても切ない物語だった。
冒頭、今までのシリーズとは違う「人斬り抜刀斎」であった頃の殺陣に震える。
鬼神と言うに相応しい殺戮、舞う血飛沫…幕末の京都を震撼させた人斬りが鮮烈に描かれる。このオープニングアクトをぶち込んできた谷垣健二氏には尊敬の念を抱く。勿論、それを具現化させたクルーにも。
見事だった。
そして、主役・佐藤健。
彼が剣心を演じてくれた事に心から感謝する。
原作の剣心が霞む程だ。
雪代巴の有村さんも素晴らしかった。
抑揚のない台詞回しでありながらも、その心の揺れや機微をちゃんと伝えてくれてた。
雪のように儚げで、そこに居るのかと疑問に思う程、熱を感じない。そんな巴だった。
だけど、静かに、ゆっくりと、剣心の心に降り積もっていく「雪代巴」…彼女でなくては、このビギニングは成立さえしなかったのではなかろうかと思う。
交わす言葉は決して多いわけではないのだが、2人の心の変遷は雄弁に語られる。
「言葉」に特化する文化の恩恵なのだろうか。
131分と短くはない本編ではあるのだが、その内容はあまりにも濃く、見応えあった。
叙情的なカットも多くはあるのだが、その背中に、見えない表情に、様々な想いを投影してしまう。
前半と後半に驚く程の落差があり、紅に染まる京都から白銀の静寂へと「雪」がもたらす効果は絶大だった。
それだけではなく、雪自体が巴そのものであるかのようで…スノークリエーターとコールされた人達の仕事に感謝したい。
真っ白な世界で克明に舞う血飛沫。
あまりに美しく哀しい一太刀だった。
その後の剣心の慟哭。
全く声を発しないのだが、その指先からは、彼女に埋もれていく体からは、愛しさと哀しさが溢れていた。
そして人斬りは戦場に戻る。
焼け落ちる家屋をバックに流れるBGMが、またいい。そればかりか、その炎が決意を顕にする。
鳥羽伏見の戦い。
確か、このシリーズのオープニングも鳥羽伏見の戦いだったんじゃなかろうか?
違ったかな?どっかで見た事あるのだけれど、その時とは全く違う印象だった。
桂小五郎の高橋氏も素晴らしかったなあ。
虹郎君も沖田総司だった。
北村氏も技アリだったなあ。
台詞で語られる事はないのだが、なんとなく彼のポジションは忍の末裔のような気がする。
時代に必要とされなくなりつつも縋り付く人間が、自らを必要とされない時代の到来の為に人を斬る人間を排除する。そんな構図が浮き上がり、緋村は前時代から続く因縁や執念をも斬り伏せた事になる。
違うかもしれないけど、そんな事を空想できてしまう。
そうか。今作は台詞のチョイスが卓越して優秀なのであろうな。その少ない字面を何倍にも膨らませた俳優陣は、見事な仕事をしてくれたのだなぁ。
終わってしまうのは非常に残念な「るろうに剣心」ではあるのだけれど、これ以上はないと思える程の有終の美を飾ってくれた。
そして、これだけは言っておかねば。
佐藤氏の背中がとても、美しい。
歩き方、佇まい…ファイナルと一貫して見事な後ろ姿だった。惚れ惚れする!
全シリーズの全ての関係者に拍手喝采を!
ありがとうっ!