「追憶…十字傷の謎・哀しき愛の果てに」るろうに剣心 最終章 The Beginning しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
追憶…十字傷の謎・哀しき愛の果てに
"るろうに剣心(実写版)" シリーズ第5作。
通常スクリーンで鑑賞。
原作マンガは未読、アニメ版も未見。
「The Final」から続けて鑑賞しました。ついに明かされた緋村剣心の十字傷の謎。秘められていたものの切なさに胸が締めつけられました。間違いなく、シリーズ最高傑作!
これまでは「動」のイメージが強かった本シリーズですが、最終作である本作は初めて「静」を感じさせる作品になっていました。剣心と雪代巴のラブストーリーを軸として殺伐とした幕末の情勢と人間模様を活写し、見事に当時の空気感を捉えた時代劇映画となっていることに驚きました。
佐藤健はこの10年間、役から離れていても心の片隅には常に緋村剣心がいたと話していたように、役への思い入れは相当なもの。その集大成として熱量の籠もった迫真の演技を見せており、物語に深みを与えているように感じました。
次々佐幕派の侍たちを血祭りに上げていく剣心でしたが、そんな彼が運命的な出会いを果たした美しき女性、巴。
連日の暗殺で疲弊していた彼の心に一条の光を投げ掛け、剣心にとってかけがえのない存在となっていきました。
隠れ家での生活は穏やかに進み、淡々と編まれていく日々。殺伐とした日常の中でふと生まれた静寂の谷間において、ついに結ばれたふたり。ですが、悲劇の足音は着々と迫って…
復讐のために剣心に近づいた巴でしたが、最愛の人を奪った仇のはずなのに、その相手を心から愛してしまった。
しんしんと降り積もる雪に映えた巴の血飛沫は、なんとも儚くて物悲しく、めちゃくちゃ心を揺さぶられました。
巴が死の直前、かつて自分が愛した男が生きようとする強い意志を持ってつけた傷に交差するように刻んだ傷。その傷が、自分の代わりに剣心を守ってくれるよう願いを籠めたように思えました。小太刀を握った巴の手を包み込むように自らの手を重ねた剣心。美しいシーンにぐっと来ました。
強い想いが籠もった刀傷は消えない。「The Final」でのセリフを思い出しました。巴の想いを受け止め、ふたりで刻んだ傷は、剣心の背負う十字架であり、同時に愛し合った象徴になったのかもしれない、と思いました。
暗殺者としての贖罪と、心から愛した女(ひと)の想いを胸に秘め、巴のように苦しむ人や自分自身のような者を生み出さない平和な新時代を築くと云う使命のために、その後も人を斬り続けた剣心。修羅を掻い潜り、それが果たされた時、不殺の誓いを立てたるろうにとしての剣心の人生が始まりました。
彷徨は続き、彼の魂が救済されるのは10年後…
「静」だと言いましたが、いつもよりは控え目だったものの、アクションシーンが皆無と云うわけではありませんでした。しかし今までとは異なる描き方がされていました。
過去作と大きく違う点は、本作の剣心は「るろうに」ではなくて、「人斬り抜刀斎」であると云うこと。手にする剣は逆刃刀ではなく普通の刀。本来殺人剣法である飛天御剣流の剣術によって、数多の殺戮を行っていました。
冒頭の圧倒的な衝撃。縄で縛られた剣心が相手の耳を食い千切り、口に小太刀を咥えたままバッタバッタと斬殺。血飛沫が飛び散り、返り血を浴びたその姿は悪鬼の如くでした。
従来の逆刃刀を使ったアクションでは、あくまでも峰打ちのため、相手を倒すために二撃、三撃と打撃を加える動きを中心にして殺陣の構成が考えられていました。
しかし本作では一撃必殺の太刀捌きによって一瞬の内に相手を斬殺すると云う動作になっており、いつもより簡潔且つ残酷な演出となっているのが印象的でした。
「The Final」は、根幹にあった剣心の抜刀斎時代が本作で詳しく描かれたことによって補完され、真の完結となりました。
始まりと終わりの物語を二部作とした理由はここにあったのかと、思わず膝を打ちました。なんと素晴らしい構造か!
そればかりでなく、剣心の人生が明白となったことで新たな側面が提示され、物語は再びここに始まりました。
つまり、無限ループが完成したんだなぁ、と…
見事な構成に舌を巻くと共に、深みのあるドラマをつくり上げたキャスト・スタッフに心からの敬意を評します。
日本映画の可能性を切り拓き、凄まじい興奮と感動を与えて下さりありがとうございました。10年間、お疲れ様でした!
[余談]
1作目では、桂小五郎役は宮川一朗太だった気が…?
[以降の鑑賞記録]
2021/12/02:Amazon Prime Video(購入)
2022/07/10:Blu-ray
2022/10/21:金曜ロードショー(地上波初放送)
※修正(2024/03/19)