劇場公開日 2020年8月28日

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「全員が聡明、全編が濃密な会話劇。」オフィシャル・シークレット アサンキリンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0全員が聡明、全編が濃密な会話劇。

2020年8月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

はじめに、この作品には「目を見張るド派手なアクション」「ジョークの飛び交うコメディ」などといった要素は皆無に近く、ただひたすら2時間たっぷりと緊張感が漂い続ける台詞中心のドラマ。
テーマとしては、主に政治と報道を軸に、さらに弁護士や警察らも加わり、人間同士の多面的なぶつかり合いが楽しめる。一瞬たりとも集中力を欠けば、そのハイテンポな会話劇に乗り遅れるのが特徴の一つ。
したがって、頭を使わず気張らずリラックスして鑑賞したい方には全く不向き。洋画好きに一定数いらっしゃるアクション好きな方にとっては「退屈で淡々と起伏のない画面」「エンタメ性や盛り上がりがない」と感じるはず。これは作品の良し悪しの問題ではなく、鑑賞に何を求めるか各人の好みの問題なので、是非これを好きと感じるに人に観て欲しい。

もちろん実話を基にしたストーリーそのものが面白い前提で本作品の良さは成り立っている。そのうえで特に伝えたい魅力は、先述したような会話劇において繰り広げられる、主人公をはじめ様々な登場人物による台詞の聡明さ。それぞれの主張や正義が熱く激しくぶつかり合う中で、皆が、この「聡明さ」を絶やさなかった。通訳の方が用いる日本語表現のチョイスも知性溢れる素晴らしいもので、その賜物でもあると思う。
たとえば主人公の女性は、苦境に追い込まれても感情的になるところを最小限に抑えて、あくまでも冷静に相手の話を聴き、考えを話す。責められようとも非難されようとも、決してヒステリックになって泣き叫んだりしない。
誰かが力任せに物に当たったり暴力で争ったりせず、あくまでも主張や正義を「言葉で」正面からぶつけ合うシーンの連続なので、見ていて非常に清々しい。

時系列を含め構成自体も分かりやすく、やはり会話劇だけに集中することができる。

情報をめぐる様々な人々のぶつかり合いを真っ直ぐに堪能したい方、聡明な人と人との濃密な会話劇をじっくりと観たい方にオススメ。

アサンキリン