劇場公開日 2020年6月12日

  • 予告編を見る

「劇場で優雅な気持ちで味わいたい「不朽の名作」! シーンが変わる際の「時間軸」には要注意」ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5劇場で優雅な気持ちで味わいたい「不朽の名作」! シーンが変わる際の「時間軸」には要注意

2020年6月11日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

本作は、本年度のアカデミー賞で「作品賞」を含め、脚色賞、 主演女優賞(シアーシャ・ローナン)、助演女優賞(フローレンス・ピュー)、作曲賞、衣装デザイン賞の主要6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞しています。
見どころは多いのですが、まずは、何と言っても超豪華キャスト共演でしょう。主演の次女役のシアーシャ・ローナンはアカデミー賞の常連ですし、長女役のエマ・ワトソン、4女役でアカデミー賞にノミネートされたのは「ミッドサマー」の主演でも話題となったフローレンス・ピュー。そして、4姉妹の母親を本年度アカデミー助演女優賞を受賞(「マリッジ・ストーリー」)したローラ・ダーン、さらには4姉妹の伯母をメリル・ストリープという最強の布陣。加えて、男優も「君の名前で僕を呼んで」で脚光を浴びてアカデミー主演男優賞にノミネートされた、いま最も旬と言えるティモシー・シャラメが準主役級です。

「悩みが多いから、私は楽しい物語を書く」 L・M・オルコット
という言葉から始まる本作ですが、この人物こそが「若草物語」の著者名です。
そして、この「若草物語」という4姉妹を中心とした物語が「半自伝的な本」ということが、本作の作り方に関係しているのも注目点なのです。
最初は主人公の次女ジョーが「ニューヨーク」の出版社に原稿を持ち込むシーンから本編が始まり、長女のメグ、3女のベス、4女のエイミーの4姉妹がバラバラに登場するため状況が少しだけ分かりにくいのですが、すぐに「7年前」の4姉妹が「マサチューセッツ」で一緒に暮らしていたスタート地点に戻るので、頭を整理することができます。
ただ、その後にまた「ニューヨーク」にいるジョーのシーンになります。
このように、時間が「今」と「7年前」のように行き来するため、劇場ならではの集中力が少し必要になります。
しかも、本作が独創的なのは、時間軸を「7年前」といったように示すのは最初の1回だけで、あとは観る側に委ねる点なのです。
そのため、例えば、最初は「ニューヨーク」と「マサチューセッツ」という場所が時間軸を判断する上での助けになります。
また、本作では「今」と「7年前」の間を埋めていくため、例えばジョーが居眠りをする時や歩いている時、立ち止まった時などに、昔のシーンに戻っていたりもします。
つまり、観る際には「時間が行き来する作品」だと最初に分かっていると、場面転換の時に「今はどこ?」と確認することで混乱せずに物語をつなぎ合わせことができるのです。
逆に、この視点を持たずに観てしまうと「起承転結」さえも見えずに、ボンヤリとした作品だと感じてしまうことにもなり得るわけです。
頭を整理して美しい全体像が見えた時には、なぜこの物語が今の時代にもシンクロしているのかが分かると思います。
いつの時代も人間の感情の本質は変わらないものなのです。
この映画は、必要に応じて時間を行き来させる手法により、物語を重層的に広がっていかせることに成功し、観終わった後は多幸感も広がっていく名作だと思います。

(評価を4.5にしたのは、時間軸の話を事前に知らないと混乱する人が出かねないためです)

細野真宏