劇場公開日 2020年7月24日

  • 予告編を見る

「中世スペイン史から始まる、圧倒的に美しく知的で優雅な90分」プラド美術館 驚異のコレクション よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0中世スペイン史から始まる、圧倒的に美しく知的で優雅な90分

2020年8月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

プラド美術館の所蔵品を紹介するカタログのような作品かと思いきや、さにあらず。神聖ローマ皇帝カール5世の晩年から始まる本作は歴代の王族が自らの栄華を飾るだけでなく芸術に対する造詣の深さや情熱を持って他国の重鎮を持てなし文化交流に勤しんでいた時代の華やかさを雄弁に語り、宮廷画家が近隣諸国に渡るのを経済的に支援したりして中世美術史を熟成させていく様も丁寧に解説。全編に渡って名優ジェレミー・アイアンズがナビゲーターを務めているので世界史の一端にずっしりとした重量感が宿っています。ファロミール館長や美術館所属の学芸員たちによる作品紹介、所蔵品の修復作業風景、そして何といっても『裸のマハ』、『我が子を喰らうサトゥルヌス』、『快楽の園』、『ラス・メニーナス』といった代表作の細部を大画面で観賞出来るのが最高のクライマックス。スペインへの渡航がかなわぬ今だから観賞する価値のある作品です。個人的にはただそれらが観たくてマドリッドに旅したエル・グレコ作品群の美しさに泣きました。

印象的だったのはスペインの女優マリナ・サウラが語るプラド美術館の思い出話。幼い頃から父に連れられて美術館を訪れていたという彼女が語る作品にまつわる思い出がとても愛おしく、子供の頃から芸術に触れることが呼吸をするのと同じくらい自然であるマドリッドという街の優雅さに改めて圧倒されました。

しかし観賞し終わって胸の内にじわじわと浮かび上がってくるのは、当時の権力者達が競うように芸術を振興していたのに対して、今の日本の権力者や富豪は表現の自由すらも理解していないという途方もない絶望感。芸術に触れ、感じ、考えることに価値を見出せないこともまた貧しさであり、ここにもまた我々がやらなければならないことがあると思い知らされました。

よね