劇場公開日 2020年2月28日

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「心の闇を覗く」地獄の黙示録 ファイナル・カット ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0心の闇を覗く

2020年3月2日
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映画で初めて、戦争のPTSDを見たのは地獄の黙示録だったと思う。
ウィラードだ。

初演当時は、そのPTSDという言葉を知らなかったが、今、改めてそう思う。
今では、ベトナム戦争だけではなく、イラク戦争などの帰還兵のPTSDもアメリカの社会問題だ。

そして、ベトナム戦争が泥沼化してから始まった徴収兵制度は、若者を巻き込んで、アメリカの価値観を内外から揺さぶり、どん底に突き落とす。

爆弾が飛び交うなかでのサーフィンや、プレイメイトの慰問の場面に、この戦争に大義などなかったことを感じる。

戦争でもマニュアル通りであろうとするもの、取り敢えずマシンガンをぶっ放したがるもの、音楽をかけゲーム感覚のもの。
兵士として訓練も行き届いていなかったのではないかと考えさせられる。
取り返しのつかないと気がつく前に、命を落とすしか無いのだ。

そして、ナパーム弾を使用して、ベトコンの隠れるジャングルを焼き払おうとするが、多雨で湿度の高いベトナムでは効果は限定的だった。
同時に使われた枯葉剤もナパーム弾も今では米軍で残虐性や環境の観点から使用が禁止されている。

ベトコンの地の利を生かした戦いはアメリカを凌駕し、アメリカの戦いは泥沼化の一途を辿る。

そして、カーツ大佐の王国。

カーツは何を見たのか。
映画の完成後に、コッポラは、この映画のテーマは何かと問われ、撮ってるうちに分からなくなったと答えた話はよく知られている。

カーツが何を見ていたのか、考えたのか。

想像することは自分の心の闇を覗くようでもある。
力を持つことによって、自分の王国を築きたかったのか、神になりたかったのか。
或いは、混沌とした世界に秩序をもたらそうとしたのか。
もしかしたら、両方かもしれない。

だが、いずれにしても、屍が転がり、遺体が木々に吊るされるような暴力と搾取の王国は、砂上の楼閣でしかないように思える。

そして、もしかしたら、コッポラは、今僕たちの生きる世界は、このカーツの王国のような世界と同じようだといつの間にか期せずして示すことになっていたのかもしれないとも思う。

世界のあちこちで戦闘は続き、宗教を背景にしたテロ、アメリカの銃の乱射事件は後を絶たないし、ネットの攻撃やフェイクニュースの悪意は、どこかで善良な人々を常に追い詰めている。

この映画は、自分の心の闇を、そして僕達の生きる世界の闇を覗くような作品だ。

この作品の元ネタとなったのは、「闇の奥」というコンラッドの小説だ。
アフリカの奥地で行われた搾取や植民地帝国の様を描いたとされる。

その頃と、僕達の世界はあまり変わってないのかもしれない。

ワンコ