ザ・レポート
配信開始日:2019年11月29日
解説
「スター・ウォーズ」シリーズや「マリッジ・ストーリー」で活躍するアダム・ドライバーの主演で、CIAが行っていた拷問に関する実態を調査した報告書に関する実話をもとに描いたポリティカルドラマ。9・11同時多発テロ事件後、アメリカ上院職員のダニエル・J・ジョーンズは、CIAの拘留・尋問に関するプログラムの調査を命じられる。さまざまな資料をもとに調査を進めるうちに、CIAが「強化尋問プログラム」と称して拷問を行い、その事実を国民にひた隠しにしていたことなどが明らかになっていくのだが……。共演に「20センチュリー・ウーマン」のアネット・ベニング、「マッドメン」のジョン・ハム、「アントマン」のコリー・ストールら。監督・脚本はスティーブン・ソダーバーグの「インフォーマント!」「コンテイジョン」などの脚本を手がけてきたスコット・Z・バーンズ。製作にソダーバーグ。
2019年製作/119分/アメリカ
原題:The Report
配信:Amazon Prime Video
スタッフ・キャスト
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2022年9月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
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国を、国民を守るためには何をやっても良いのか。テロリストなら人権を侵害しても良いのか。映画に出てくる拷問シーンはかなり見るに耐えない残酷なものだった。人の道に反するものだった。拷問をして、何一つテロを未然に防いだものが無いというのが衝撃の事実。ゼロ・ダーク・サーティでも水攻めのシーンがあるが、非人道的行為をした結果、得られる情報もあると普通に思っていた。FBIが示した信頼でこそ得られるのかも知れない。映画では主人公ダニエルの日常や趣味嗜好が全く描かれず、ただ単に仕事に没頭し、終わりの見えない真実の解明に突き進む姿を描く。民主党、共和党の政治情勢に大きく揺られながら、そして自らが罪に問われる危険に晒されながらも、信念を貫き通すダニエルが凄い。隠蔽しようとするのもアメリカだが、その事実を公表するのもアメリカであり、こうした映画を作るのもアメリカで、色んな意味で凄い国だと思う。愛国心とはを考えさせる硬派な作品。
2022年7月31日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
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○作品全体
9.11でアメリカが狙われたことでアメリカの安全保障を志した主人公・ジョーンズ。ともに国を守る活動をしているはずのCIAの暗部に触れ、ジョーンズとそれを取り巻く対立構造がテロリズムではなく国家内部の機関に寄っていく。
大組織との複雑な対立の中でもジョーンズの正義心そのものは変わらず、アメリカの暗部を公に示すことを目標となるから「レポート」の存在や目的がブレない。実際の拷問は熾烈なものであるが、ジョーンズ自身は暗い地下室で黙々と真実を探す…この骨太な対比が面白い。
単純な目線で見ると、拷問をしてそれを隠蔽しようとする政府やCIAは悪の存在にも映るが、アメリカを守るために、アメリカの信用失墜を回避するために…という正義心も孕んでいて、単なる悪と断定できないところがジョーンズの仕事を複雑にしていて、その構造も面白く感じた。
真実の探究も、行きすぎた行為も、それを隠す工作も、すべての書き出しに「アメリカのために」という言葉が入る。その愛国心が危うさでもあり、大国の抱える病の一つを的確に描写していた。
肥大化した正義が抱える闇を取り繕うのは、公文書を覆う黒いマーカー。終盤、上院議員がスピーチで「おおやけにすることで、それを理由にアメリカを攻撃してくるものもいるかもしれないが、おおやけにできる大国でありたい」というような話をするが、マーカーをそのままにしても、剥ぎ取ったとしても傷口が残る状況を端的に表現していて印象的に残った。
傷をつけようとも、傷が悪目立ちしようとも「国のために」と裏舞台で熱意を秘めて動く。徹底した(執拗な、とも言える)その姿を黙々と捉え続ける本作には、静かな熱意で溢れている。
○カメラワークとか
・画面の暗さがさまざまな場所で繰り広げられる「暗躍」の情景を引き立てる。BGMも控えめで、陰に触れてる感じが面白い。
○その他
・ラストにジョーンズの功績を饒舌に語るテロップは語りすぎだなあと感じる。
作中で報告書が公表されることの困難さというのは散々描写されてるし、どれだけ時間をかけているか、ということもシークエンスごとに挟む年数の表示でわかる。なにより物語が実際に公表するところまで辿り着いてるんだからいらないんじゃないかと思う。
ラストで一人ワシントンの街を歩くジョーンズの姿は「持て囃されるような功績ではないけれど、キッチリとケリをつけた男の帰路」として的確に描写していた。黙々と仕事をこなした仕事人の渋さがよく出てる。そこにベッタリ調味料をかけるようなテロップ…というような具合に感じてしまった。
拷問それ自体が良くない事であると(ある程度)分かっていても、情報を聞き出す事ができれば、合法になり得るという不合理な理屈が存在。他方、自らの過ちを認め、世界に晒す事が出来る大国としての成熟を感じる一作。
2022年1月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
THEとREPORTの間に赤塗りされた文字は“TORTURE(拷問)”だ。このタイトルでさえ拷問の文字を排除し、秘密を暴いたのに黒塗りされたレポートといった意図を如実に表すタイトルだ。
『モーリタニアン黒塗りの記録』(2021)の内容とも被ってくる作品ではありますが、こちらの作品はCIAの記録を調査する上院職員ダン(アダム・ドライバー)を中心とした実話モノ。ほぼ会話劇で進むために、恐怖を味わうような緊迫感よりも政治とCIAの絡みの裏事情がヒシヒシと伝わってくる仕組みとなっていました。SEREプログラムや3Dといった専門用語も登場しますが、要は心理学者が拷問に加担していたこと。拷問への抵抗する教えが逆に拷問利用へと変わっていったことがわかります。cf:ミッチェルとジェッセン
6年間入室も厳しい調査室で穴蔵生活のような職場に身を置き、真実を暴こうと意気込んでいたダン。関係者の調査などでレポートをまとめていくが、それが7千ページにもなる内容となった。実在の政治家の名前、特にブッシュやオバマ大統領、チェイニー、ラムズフェルド、ライス、アディントン等々がボンボン飛び出してくる面白さがあります。
キーとなるのは水責めは効果が無いということ。結局はビンラディンとは無関係な者を拷問し、アルカイダやビンラディン殺害に成功したというのも拷問から得た情報ではなかったことも明らかになっていく。そして、強化尋問法も破棄したオバマ大統領でさえ、その審議過程についてはひた隠し。主人公のダンにしても英雄扱いされるか裏切り者の烙印を押されるかの両極端の意見がまた分断の要因になるだろうことも頷けるし、世間に真実を伝えることも諸刃の剣だと訴えてくる。
反権力といったテーマではないし、真実を明らかにするといったジャーナリズム精神がダンにはあったのだろう。それは共和党、民主党の政策に偏ることなく、超党派での闘いなのだと。さらには三権分立の真意も伝わってくるし、相互に監視し合うことの大切さも訴えてくる。
それに比べて日本で起きてることと言えば、政権維持のために政治活動したり、私利私欲のために政治をしたりする小悪党ばかりなんだと・・・情けない。まぁ、日本では人権の尊重さえ無くそうとしてるんだからなぁ・・・悲しい。そろそろ敬遠していた『ゼロ・ダーク・サーティ』でも見てみるか。