「説明不足が玉にキズ」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) 八島さんの映画レビュー(感想・評価)
説明不足が玉にキズ
主人公と車いすのジョゼが偶然出会うところから物語が始まります。
アルバイトとしてジョゼの世話役をする主人公。
祖母から外の世界は虎ばかりで、危険だと教わるが気になるジョゼ。
まず、ジョゼは主人公にただの嫌がらせを始める。
主人公を辞めさせたいのは分かるが、主人公は外の世界の恐ろしい虎だ。
もっと恐れや怒りを表す嫌がらせをして、次第に嫉妬や憧れの感情と繋げてくれればジョゼの感情をもっと表現できた。
いきなり主人公に強く当たっては、虎をも恐れぬ怖いもの知らずと思えてしまう。
それなら外に出ることを恐れないだろうに。
主人公と共に外の世界に導かれるジョゼ。
主人公には見慣れた世界でも、1つ1つに感動するジョゼを見て世界とは素晴らしいのだと気づかされてゆく。
祖母に外出を禁止されても好奇心には勝てず何度も約束を破ってしまう。
私たちの誰もが主人公に共感できるこの映画の見所の1つです。
タイトルのジョゼと虎が出会う場面が来るのですが、納得できない場面です。
序盤から一貫してジョゼはとにかく強いのです。
ほぼ初対面の主人公に対しても強気で文句を言い、祖母に対しても平気で約束を破る。
外の世界に対しても緊張するだけで恐れる描写はほぼ無く、主人公から逃げるために遮断機の降りている踏切にも入る。
恐れ知らずというか命知らずというか。
そんなジョゼが動物園の檻に入った虎を遠目から見て、怖いと言うのは違和感しか感じなかった。
普通の人からしたらジョゼの方が怖いだろと。
外の世界を虎と思い檻に入っていたジョゼと、外の世界に出れない檻の中の虎。
檻から出たジョゼなら、虎を可哀想と憐れむと私は思います。
そして唐突に祖母が亡くなる場面に移ります。
ジョゼは祖母に甘える描写も無く、祖母もジョゼには厳しい態度でした。
外から見ているとドライな関係と見えても、その絆は固く立ち直れないくらい落ち込んでいるだろうと私は勝手に思っていました。
主人公ともドライな関係に見えても実は好いているとするには、その場面が必要だからです。
しかし、ジョゼの悲しむ場面は一瞬も無い。
少しでも立ち直る流れを描かないと、ジョゼの心が心配になります。
そしてジョゼは主人公にアルバイト代が払えないから来なくていい、と伝えます。
主人公は「これで時間を考えず会いに行ける」と言うかと思ったら、本当に会いに行かない。
金が貰えなければ会いたくもないって事かと、ツッコミを入れたくなります。
主人公の同僚が心配してジョゼを訪ねるのです。
お人よしの主人公なら一番に動くだろと思うのですが、理解できません。
主人公の入院から絵本の場面がこの映画のクライマックスです。
私はこの場面が素直に好きです。
誰だって夢があって、でも実現できる人は少ない。
夢破れ傷つき立てなくなっても、いつかは傷を治し歩いていかなければならない。
外の世界を恐れ、檻に入っていたジョゼを導いてくれた主人公。
諦めている主人公を、今度はジョゼが救おうと絵本を懸命に作る。
ジョゼがどれだけ感謝していたのか、主人公を理解していたのかが分かります。
私はここで終わってくれたら良かったと思ってしまう。
ジョゼは主人公のお見舞いと、リハビリを見てるだけ。
ジョゼは主人公を好いているが、主人公はどこでジョゼを好きになったんだろうと思ってしまう。
今度はジョゼが主人公を病院から連れ出して遊んだり、主人公のわがままにジョゼが付き合わされるとかそういった描写を入れないと説得力がない。
面識のあるジョゼの祖母が亡くなった時に、会いにも行かない主人公の愛情は0くらい。
絵本を見たら大好きになりましたとはならないでしょう。
最後に主人公の退院の時、ジョゼが行方不明になる。
人魚が海に帰ったように、そばにいる事だけが愛情の形ではないのです。
ジョゼは別の道を歩むため遠くに移り住み絵本を書き、時を経て出版された絵本を主人公が読む。
そして主人公がジョゼを探し、仲良く暮らすのでした。
なぜなら絵本には続きが足され、再び出会い幸せに暮らす物語に変わっていたのです。って話を私は想像していました。
しかし結果は、ジョゼはウロウロしてて家に帰る途中滑って主人公がキャッチ。
なぜわざわざ、退院の日に連絡もせず虎に会い暗い時間になったのか全然意味が分からない。
序盤の破天荒なジョゼなら分かるけど、常識を身に付けたジョゼはそんな事しないでしょ。
全般に言えるのは説明不足。
映画自体は素晴らしいし美しいのだけど、何か理由が無いとそういう行動しないでしょって所がとても多かった。
いい映画だからこそ勿体ない。