「葛藤のない綺麗な世界。」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) そらのばさんの映画レビュー(感想・評価)
葛藤のない綺麗な世界。
原作も実写版も見ないで鑑賞。
退院までの一連のシーンには涙し、各キャラの表情がとても丁寧に描かれていて間違いなく良作にも関わらず、どこか物足りない。そんな気持ちになった。
それは登場人物たちが物語が始まった時点で生まれたかのような薄さを感じたからなのだと思う。
ジョゼの祖母はジョゼの相手をさせるべく恒夫を雇うが、その真意は読めない。
ジョゼの自立をさせたいのかと最初は思ったものの、外には出したがらない上に、役所の人との会話では閉じ込めておこうとしていた意思すら感じた。
恒夫は魚を見る為に海外留学をしようとするが、その資金があるのであれば1ヶ月ぐらい旅行で行けば良いのにと思う。やっていることと比べて、どこか歪さを感じる。
(公式サイトには幻の魚という記述があるので、希少種なのかもしれないが、そんなものが店にいるのはおかしい)
そういった土台のあやふやさが、恒夫とジョゼの「夢」というものにかける想いをどこか空虚な物にし、葛藤があまり描かれないこともあり、どこか物語が軽い物になっていたように思うのだ。
そして、主要キャラ達はみな善人で人間らしいドロドロとした核がないことも相まって、よくある良い話になってしまっていた。
それが個人的に物足りなかったものの正体なのだと思う。
それでも涙したのは、セリフ外の描写の巧みさがあったからだと思う。
土台のしっかりしていない物に言葉で積み重ねても真実味がないが、心情描写ーー行動や物に映された心は真実味を帯びる。
例えば、海から帰った数日後、恒夫が来る前に「おめかし」をするジョゼ。普段やらないであろうことを祖母の驚きで表現しつつ、恋が芽生えた少女を演出している。
恒夫がプレゼントした魚のライトは、夢が叶わなくなったことを物語るべく壊れたかのような落下音をあげながら猫に落とされる。終盤では夢を一旦離すことを象徴するかのように、箱詰めされた状態で恒夫が見つける。
上げたらキリがないくらい、セリフ以上に物が語る作品だったように思う。
その印象の強さは、描こうと思った物しか入り込まないアニメならではないだろうか。
見どころは多いので、もう一度見たら新しい発見があるかもしれない。